2021年3月期から開始する「監査上の主要な検討事項:KAM(Key Audit Matters)」について、早期適用会社の事例を見てみました。
2021年3月期から、監査法人からの監査報告書に「監査上の主要な検討事項:KAM(Key Audit Matters)」が記載されることになります。多くの上場会社では「いったいどうなることか」と気に病んでいる項目の一つです。
詳しくは、こちらの過去記事をご参考ください。
このKAMは、早期適用で、すでに監査報告書に取り入れている企業があります。
ここでは、そのような企業の監査報告書を事例に、どのような内容を記載しているのか、見ていきたいと思います。
早期適用の会社でのKAM項目
KAM早期適用会社の中から、いくつかの会社の有価証券報告書に添付されている監査報告書(基本的に連結の方)を見ていきます。なお、ここではKAMの項目しか記しませんが、各KAM項目に「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」と「監査上の対応」が記載されています。
四国電力株式会社:有限責任監査法人トーマツ
- 電気事業セグメントの電灯料及び電力料
- 情報通信事業セグメントのデータセンター事業の評価
日立金属株式会社: EY新日本有限責任監査法人
- 非金融資産の減損
マルハニチロ株式会社:有限責任あずさ監査法人
- Peter Pan Seafoods,Inc.が保有する有形固定資産の減損損失の認識の要否に関する判断
綿半ホールディングス株式会社: 太陽有限責任監査法人
- 小売事業における固定資産の減損
- のれんの評価
- 工事進行基準の適用による工事収益の認識
株式会社メンバーズ:監査法人アヴァンティア
- 収益認識(売上高の期間配分の適切性)
- のれんの評価
松井証券株式会社:PwCあらた有限責任監査法人
- 財務報告に影響を与える主要なシステム統制
「のれん代の評価」「事業や在庫の評価」などがKAM候補
上にあげた企業のそれぞれの内容を見ると、KAMとしては、おおよそ1-2個ぐらいを挙げられているのがほとんどです。
「のれん代の評価」「新規事業や在庫の評価」といった、会社側の基準を変えることで如何ようにもなる項目を、KAMとして挙げられているように感じます。
それ以外としては、電力会社や証券会社のように、会社内のシステムが吐き出すデータの値が、会社の収益に紐付ているような場合も、KAMとして挙げられています。
KAM項目が10個以上という会社もありました
株式会社AOKIホールディングス:PwCあらた有限責任監査法人
- 新型コロナウイルス感染症拡大が財務報告に与える影響
- ファッション事業における店舗固定資産の減損損失の認識
- エンターテイメント事業における店舗固定資産の減損の兆候判定
- ファッション事業における棚卸資産の評価
- アニヴェルセル・ブライダル事業における減損会計の適用
- 繰延税金資産の回収可能性
- 資産除去債務の計上
- 経営者による内部統制の無効化リスク
- 収益認識に係るリスク
- 不動産賃貸事業に係る表示方法の変更
- セグメント情報の変更
ちょっと変わった事例としては「AOKIホールディングス」のKAMは項目数が多く、また各KAM項目に対するリスク評価も併記されていて、ユニークな内容と思いました。
2021年3月期からKAMが本格化
2021年から、早期適用以外の上場会社でも、KAMを盛り込んだ監査報告書が次々と出てきます。
「KAMで指摘されている項目が不透明で怪しい項目」というわけではありませんが、投資家等からの関心を引きやすい項目とも言え、KAMの内容によっては、決算説明資料等での理論武装が行われるような予感もします。
IR担当者からすると、ちょっと対応が大変になるかもしれませんね。