脱ハンコで監査報告書の押印が不要になる?
現政府が政策の大きな柱の一つとして進めている「脱ハンコ」。
その影響で、2021年9月1日より、株式会社の監査報告書での押印が不要となりました。この監査報告書は、監査法人や公認会計士が作成する監査報告書です。
脱ハンコの法律が2021年9月1日に施行
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が2021年7月30日に閣議決定、2021年9月1日より施行されます。
会計監査人の監査報告書の押印が脱ハンコに!
それに合わせて、金融庁関係政府令の改正も行われ、その一環で、監査報告書への押印の条件が改められました。
具体的には、
(従来)
監査証明に係る業務を執行した社員が、自署し、かつ、自己の印を押さなければならない↓
(改正後)
監査証明に係る業務を執行した社員が、署名しなければならない
というように「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」が改正されました。
今までは「自署と押印」が必要だったのですね!
何回か、監査報告書の原本を見たことがあります。公認会計士の先生方の立派な署名と押印が並んでいて、厳かな印象があって、氏名ぐらい印刷でいいのでないかと思っていたら、法律が決まっていたんですね。
なお、会社法上では署名・押印の必要はなく、この金融庁での「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」だけの制約だったようです。
監査役等の監査報告書も脱ハンコできる?
「監査報告書」は、監査法人だけでなく、監査役や監査等委員も作成し、株主総会等での重要書類となります。そして、その書類にも押印がされることがほとんどです。
日本監査役協会によると、
監査役等の監査報告については、法令上の署名義務はなく、署名の有無は監査の責任の軽重に影響しない
とされており、
基本的には、署名・押印は必須ではないとされています。
しかし、
真正の監査報告であることを示すために自署押印したもの
という考え方から、自署・押印するのが習慣となっているようです。
「コロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」(公益社団法人日本監査役協会 2021 年2月26日)より
取締役会・監査役会等の議事録は脱ハンコできる?
会社法によると、取締役会の議事録は、
(会社法369条)
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
とされています。監査役会の議事録も、同様の内容が会社法393条に定められています。
議事録を書面で作成した場合には、
出席した取締役及び監査役は「署名」または「記名押印」が求められています。
脱ハンコはできるけど、
「署名」が必要なので、負担的には、ほとんど変化がないような。。。
さらに、電磁的な署名も認める処置はされています。
しかし、役員全員が、電子証明書を取得して、
それを使って電磁署名を施すというのは、まだ現実味が薄いような気がします。
結論を言えば、取締役会・監査役会等の議事録は「脱ハンコ」はできるけど、その代わり出席役員の「署名」が必要で、実質的に変化がないと言えるでしょう。
政府が目指す「脱ハンコ」、
会社運営の実務においては、現状まだまだ難しいと感じました。