東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を改訂しました。
- 上場会社が守るべき行動規範「コーポレートガバナンス・コード」
- 「コーポレートガバナンス・コード」の概要
- 2018年6月の「コーポレートガバナンス・コード」改訂内容
- アメリカナイズされた経営が求められる?
上場会社が守るべき行動規範「コーポレートガバナンス・コード」
日本の株式上場会社には「コーポレートガバナンス・コード」というものが課されています。
これは、
上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針。2015年3月に金融庁と東京証券取引所が取りまとめ、2015年6月から適用が開始された。株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うことなどを定めたもので、その実施を一律に義務付けるものではない。しかし「コンプライ・オア・エクスプレイン」として、何らかの事由でそれを実施(コンプライ)しない場合は、投資家にその理由を説明(エクスプレイン)することが求められる。
といったものになります。
企業は、根拠法となる会社法というルールブックがあり、社会通念から一脱するような違法行為でなければ、どのような活動をしてもいいわけで、たとえば、事業内容がコロコロ変わったりしても、とくには問題はないわけです。
しかし、株式を上場している会社は、そういう自由はあるけれども、律して経営しなければいけない、ということが求められ、それが「コーポレートガバナンス・コード」という形になっています。
2000年以降に、ライブドア問題やエンロン問題など、企業運営モラルによる不祥事が相次ぎ、それを教訓にした対応と考えています。
企業では、この「コーポレートガバナンス・コード」の対応状況をコーポレート・ガバナンス報告書として取引所に提出し、取引所のWebサイトでは、その内容が一般公開されています。
「コーポレートガバナンス・コード」の概要
「コーポレートガバナンス・コード」には、基本原則:5原則 原則:30原則 補充原則:38原則の計73原則が定められています。(2018年6月1日の改定前の数)
原則の内容として、以下のような内容になっています。
第1原則:株主の権利・平等性の確保
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株 主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
第2原則:株主以外のステークホルダーとの適切な協働
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、 取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの 提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な 協働に努めるべきである。
第3原則:適切な情報開示と透明性の確保
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リ スクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行 うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
第4原則:取締役会等の責務
場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、役割・責務を適切に果たすべきである。
第5原則:株主との対話
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総 会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
簡単に言えば、企業の所有者である「株主」と、その企業の経営を任せられている「会社(経営者)」の間で信頼のある関係を構築すべく、必要な情報公開や体制づくりに努めなさい、ということだと考えます。
2018年6月の「コーポレートガバナンス・コード」改訂内容
今回の2018年6月の改訂では、
- 「原則1-4. 政策保有株式」に補充原則が追加
- 「原則2-6. 企業年金のアセットオーナー としての機能発揮」が追加
- 「原則4-3. 取締役会の役割・責務(3)」に補充原則が追加
といった追加項目がありました。
また、これら以外にも、文言等の加筆修正がされています。
- 「第3章 適切な情報開示と透明性の確保」
- 会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明等を行う
- 「原則4-8. 独立社外取締役の有効な活用」
- 十分な人数の独立社外取締役を選任すべき
- 「原則4-11. 取締役会・監査役会の実効 性確保のための前提条件」
- ジェンダーや国際性の面を含む多様性
- 監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべき
- 「原則5-2. 経営戦略や経営計画の策定・公表」
- 自社の資本コストを的確に把握
- 事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分の具体化
アメリカナイズされた経営が求められる?
事業ポートフォリオ経営
今回の変更内容を改めてみると、アメリカの経営スタイルを日本にも導入したいような、そんな思惑を感じます。
たとえば、「原則5-2. 経営戦略や経営計画の策定・公表」は、企業内の事業ごとに収益率を出し、その事業ポートフォリオを見直し、入れ替えながら、企業全体の収益率を向上させるといった、ジャック・ウェルチ時代のGEを想起させます。
親会社が持株会社で、子会社も上場していれば、株式を売却・取得することで、事業ポートフォリオをコントロールしながらの経営管理がしやすいですが、そうでないと、事業の売却や取得は、日本の場合は、なかなか難しいのが現状です。
取締役の多様性
「取締役の多様性」といった点も強調されている印象です。
取締役に、女性や外国人を取りいれることが望ましいとなっていますが、海外のように「株主の代表=取締役」(経営は執行役員が行う)ならば可能でしょうが、「経営幹部=取締役」という日本の組織構成では、実現に時間がかかりそうです。
そもそも、日本には「プロ経営者」が絶対的に少なく、社外取締役の選定にも苦労している現状では、苦労しそうです。
ESG情報の開示
ESGという、環境、社会性やがバンスに関する情報の説明を強化してほしいという内容が盛り込まれています。
その上、これらESG情報は、雛形的な内容ではなく、独自的なユニークな内容にしてほしいということで、企業側でいろいろと努力工夫をしないといけなさそうです。
コーポレート・ガバナンスについて、詳しくは東京証券取引所のページをご覧ください。
コーポレート・ガバナンスの本来の意味は「経営者が株主のために企業経営を行っているか監督する組織」のことです。
by 宮内 義彦