保育園経営の大変さについて調べてみました。
現在、日本では「子育て支援」の政策を進めています。簡単に言えば、保育園を増やして、育児期の子どもをもつお母さんが、外で働ける環境を整えようとしています。
この保育園の経営状況に関して、興味があったので、簡単にまとめてみました。
赤字経営の保育園が約2割
独立行政法人福祉医療機構の調査によると、
黒字経営の保育園 | 赤字経営の保育園 |
---|---|
84.6% | 15.3% |
2割弱の保育園が赤字経営となってしまっています。
赤字の保育園が8割ぐらいかと思っていたので、この結果自体は、想定したよりも良い結果でした。
その経営状況をみると、
黒字経営の保育園 | 赤字経営の保育園 | |
---|---|---|
利益率 | 8.8% | -4.2% |
利用率 | 101.3% | 98.1% |
従事者1人当たりサービス活動収益 | 5,468千円 | 5,076千円 |
従事者1人当たり人件費 | 3,833千円 | 4,014千円 |
という感じです。
統計の数値を見る限り、赤字保育園の場合、
- 保育園の利用率が少し低い→稼働率が悪い
- スタッフ一人当たりの収益が少ない
- 人件費が高い
という点が、収益をマイナスにしている要因のようです。
独立行政法人福祉医療機:平成28年度 保育所および認定こども園の経営状況について
メディア等で
- 保育士不足/保育士の年収が低い
などといった問題が話題になります。保育園の稼働率や規模により、得られる収益が変動されますので、「運営基盤が安定しない」という状況に陥りやすく、人件費を抑えて、固定費を低くくせざるを得ないということの現れなのかもしれません。
保育園の運営形態:営利経営が2%
厚生労働省の調査によると、全国にある24,424の保育園のうち、
- 株式会社・有限会社による保育園の運営:657 施設
- 社会福祉法人による保育園の運営:12,893 施設
- 公立の保育園の運営:9,644 施設
という結果になっています。(平成26年4月1日時点の内容)
「株式会社・有限会社」が運営すれば、必ずしも「黒字」になるというわけではありませんが、 この運営主体の差が、「利益を産みにくい」、つまり組織の安定的な継続運営がしにくい、ということに関係しているのかもしれません。
企業による保育園運営の経営状況
保育園ビジネスを展開している会社がいくつかあります。
株式上場されている会社は、財務諸表も公開しているので、そこでの状況をみてます。なお、多事業を運営している場合は、保育事業のみの売上高・営業利益をピックアップしています。
株式会社ニチイ学館
運営保育施設: | 122 施設 |
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売上高: | 5,949 百万円 |
営業利益: | -781 百万円 |
営業利益率: | - |
ROE: | 3.8 % |
株式会社ニチイ学館の2017年3月期の業績より
株式会社ソラスト
運営保育施設: | 13 施設 |
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売上高: | 1,303 百万円 |
営業利益: | 161 百万円 |
営業利益率: | 12.3 % |
ROE: | 26.4 % |
株式会社ソラストの2017年3月期の業績より
株式会社グローバルグループ
運営保育施設: | 118 施設 |
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売上高: | 13,155 百万円 |
営業利益: | 407 百万円 |
営業利益率: | 3.0 % |
ROE: | 14.2 % |
株式会社グローバルグループの2017年9月期の業績より
ライクキッズネクスト株式会社
運営保育施設: | 316 施設 |
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売上高: | 14,724 百万円 |
営業利益: | 64 百万円 |
営業利益率: | 0.4 % |
ROE: | 25.6 % |
ライクキッズネクスト株式会社の2017年4月期の業績より
株式会社JPホールディングス
運営保育施設: | 172 施設 |
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売上高: | 22,800 百万円 |
営業利益: | 1,263 百万円 |
営業利益率: | 5.5 % |
ROE: | 9.9 % |
株式会社JPホールディングス社の2017年3月期の業績より
企業運営の場合、黒字となっている保育園が多いように感じます。
おそらく、その理由は、以下のような要因があると考えられます。
- スケールメリットによる効率化
企業運営の場合、保育園を一つではなく、複数園を運営するのがほとんどで、スケールメリットが生きてくるのだと思います。たとえば、園児募集の広告、保育士募集などの採用活動、バックオフィス的な事務作業の効率化が効いてくるでしょう。 - 運営母体が上場していることの安心感
保育園が「上場している企業」という安心感は、利用する保護者にとって重要かもしれません。
ただ、問題点があるとすれば、企業で、株式上場をしているならば、継続的な利益を産み続けなければいけないということで、保育園事業で利益の創出が難しくなった場合、事業廃止などのリスクがあるでしょう。
以前、介護事業で「介護報酬不正請求事件」や「M&Aによる運営会社の変更」といったことがありました。そういう不安要素も孕んでいるようにも感じます。
現在、国の施策に絡み、保育園運営用の助成金制度が用意されています。それを目当てにした不祥事というのも、メディア等で報じられるようになっています。本来の正しい助成金を使用してもらいたいものです。
また、上場している会社の一般的な事業と比べると、利益率が低いのが気になります。保育園事業は、人海戦術とまでは行かないにしても、人手が多く必要な業態で、損益分岐点が高い状態にあるのでしょう。
「保育園」というのは、人の命を預かる仕事ですので、利用する保護者が安心できる組織運営ができ、働かれる保育士さんにとっても満足できる環境になれことが大切だと思います。
待機児童を減らすには何千という園が必要で、そのためにはいろいろな参入プレーヤーが入ってきて、業界全体で発展していったほうがいい。
by 駒崎 弘樹