品切れ続出の 「Nintendo Switch」。その「Nintendo Switch」争奪戦が起きています。
- 時価総額が「兆円」規模の「任天堂」
- 大ヒットゲーム機「wii」以降は不振がつづく
- 売上高が減少傾向にある「任天堂」
- 「Nintendo Switch」を2017年3月に発売
- しかし、発売前にはアナリストからの評価が低かった「Nintendo Switch」
- 発売してみれば「Nintendo Switch」は大好評
- 日本の任天堂系ゲーマー人口:590万人、供給できた「Nintendo Switch」は76万台
- 「Nintendo Switch」は、ネットでは入手困難。リアル店舗が強い
- 任天堂の「品薄戦略」
- 任天堂の「追加アクセサリー戦略」
- 任天堂の「価格改定戦略」
- 「Nintendo Switch」本体だけで年間2,000億円の売上?
時価総額が「兆円」規模の「任天堂」
「任天堂」といえば、家庭用ゲーム機などを企画・製造・販売している企業です。
ゲームをやらない人でも、社名は聞いたことがあると思います。
1980年代のファミコン発売以来、数年ごとに「ゲームボーイ」「wii」「DS」などの新しいゲーム機をつくり、そして「マリオ」「ゼルダ」「ポケモン」などの大ヒットゲームを世に送り出してきました。
日本だけでなく世界で遊ばれるゲームを提供し、家庭用ゲーム機の王者でもあった任天堂は、一時期、株式時価総額は10兆円規模という時期もありました。(なお、2017年5月現在、任天堂の株式時価総額は約4兆円です。)
大ヒットゲーム機「wii」以降は不振がつづく
2006年に任天堂が発売した、家庭用ゲーム機「wii」は、全世界で1億台以上が売れる、大ヒットゲーム機にとなりました。
初年度の売り出しが順調で、
(wiiは)世界累計販売台数2,000万台を発売開始して約60週で達成
wiiの成功は、直感的な操作でゲームが遊べることで、ゲームを遊んだことがない層を取り入れることができたのが要因と言われています。
ちなみに任天堂では、wiiのコンセプトとして、
- ゲーム人口の拡大
(ゲームから離れてしまった人を呼び戻す。女性や高齢者といった非ゲーマー層を取り込む)。- ゲーム定義の拡大
(従来は存在しなかった作品を投入する。例:『Wii Sports』、『Wii Fit』)。- 年齢や技量を問わず、誰もが同じスタートラインに立てること
(コアゲーマーとカジュアルゲーマーが共に楽しめる)。
といったことを掲げていました。
しかし、この「wii」以降に出したゲーム機「wii U」は売れ行きが好調ではなく、全世界での販売台数は約1,300万台と、「wii」の1/10ほどで生産中止となりました。
売上高が減少傾向にある「任天堂」
ここ数年の収益をみると、トップラインである売上高が減少傾向にあります。毎年500億円ほど減少しています。
年度 | 売上高 | 当期純利益 |
---|---|---|
2012年3月期 | 647,652百万円 | △43,204百万円 |
2013年3月期 | 635,422百万円 | 7,099百万円 |
2012年3月期 | 571,726百万円 | △23,222百万円 |
2012年3月期 | 549,780百万円 | 41,843百万円 |
2012年3月期 | 504,459百万円 | 16,505百万円 |
なお、キャッシュリッチな会社なので、一時的な赤字となっても、十分持ち堪えられるのが、任天堂のすごい財務体質です。
「Nintendo Switch」を2017年3月に発売
任天堂の新ゲーム機「Nintendo Switch」は、こういう低迷状態からの脱却をかけて発売された、新しい家庭用ゲーム機です。
特徴的なのが「最大の特徴は自宅と屋外の両方で使えること」。
- 家ではテレビに接続して遊ぶ「TVモード」
- 本体だけで遊ぶ「ケータイモード」
- 本体からコントローラーを外せる「テーブルモード」
場所に関係なくゲームができる設計です。
今までの携帯ゲーム機は、同じゲーム機をもっていないと、外では友達同士で遊ぶことができませんでしたが、この任天堂の新ゲーム機「Nintendo Switch」は、一台のゲーム機器を複数人で遊ぶことができます。
しかし、発売前にはアナリストからの評価が低かった「Nintendo Switch」
2017年3月の発売前に、「Nintendo Switch」のイメージビデオ、商品発表会や体験会を開催されました。
しかし、株式アナリストなどからの評価はあまり高くなく、
任天堂株が大幅安 新ゲーム機の評価に戸惑い
(2016年10月の日経新聞)
という状況でした。
発売してみれば「Nintendo Switch」は大好評
2017年3月に新しいゲーム機「Nintendo Switch」が発売され、実際のプレイヤーが遊んでみると「好評」という結果。「Nintendo Switchで遊びたい」という人が多い状況となりました。
現時点の2017年5月までで約3ヶ月が経ちますが、商品の供給は全く足りておらず、お店では品切れ状態が続いています。
「Nintendo Switch」は、毎週末に家電量販店に出荷され、店頭売り出しますが、すぐに売り切れとなってしまいます。(2017年5月現在)
日本の任天堂系ゲーマー人口:590万人、供給できた「Nintendo Switch」は76万台
過去の「wii」の販売状況から、「Nintendo Switch」の需要予測をして見たいと思います。
wiiは、日本では最終的に約1,300万台を販売し、発売後2年間でみると590万台でした。
商品の「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」という層を、wiiの発売後2年間に購入した人数だとすれば、日本の任天堂系ゲーマー人口:590万人と推測できます。
この590万人が、今回の「Nintendo Switch」を欲しいと思っているわけですが、そのうち出荷できたのは76万台です。(2017年4月末時点)。
76万台 ÷ 590万人 = 12.8%の供給率です。まだまだ500万人もの人が、「Nintendo Switch」を欲しています。
「Nintendo Switch」は、ネットでは入手困難。リアル店舗が強い
日本では、毎週2-4万台ほどの「Nintendo Switch」を供給されているというウワサです。
しかし、上述のように、売り場からは、瞬間蒸発で品物はなくなっています。
注文すれば、品物をスグに届けてくれるネット通販も、今回の「Nintendo Switch」では全く機能しておらず、どのサイトを見ても「在庫なし」という状態です。
天下のアマゾンでも、定価販売の「Nintendo Switch」本体はすぐに売り切れ、転売系の出品がほとんどの状態となっています。転売系では、定価よりも+5,000-10,000円ぐらいのプレミア価格を乗せた価格で販売されています。
任天堂のオンラインストア「マイニンテンドーストア」でさえ、週に1回の数量限定販売です。しかし、運良く「マイニンテンドーストア」で購入できても、届くのは2週間後というような状況です。
まだ購入できる可能性があるのが「家電量販店」「おもちゃ屋」のリアル店舗です。
在庫が入荷する週末に、そういうお店に行き、運が良ければ購入できるかもしれません。しかし、なんとも不果実性にかけるしかない状況です。
昔の、ファミコン時代のドラクエの入手を思い出します。
とにかく「品薄状況」。
しかし、この「品薄」は、あえてそういう状態なのではないか、というふしがあります。
任天堂の「品薄戦略」
「Nintendo Switch」に限らず、品物の需給バランスがあることで、価格が調整されています。供給過多だと価格が下がりやすく、需要が上回っていると価格が上がりやすくなります。この辺は、金などの商品マーケット・株式市場などの価格形成メカニズムに似ています。
「品薄」という状態のメリットを考えると、商品を値崩れさせない、販売需要を長引かせる、業績を安定化させる、といったことがあります。
一方で、販売機会損失が生じていますので、本来であれば、なるべく早期に品切れを解消するのですが、そもそも前提としているビジネスモデルが違うのかもしれません。
たとえば、iPhoneで成功したAppleは、端末を早くばらまいた方が、ケータイキャリアからの契約料、ユーザーからのアプリ代などの収益機会が早まります。いわゆるストック型ビジネスです。
任天堂の場合は、よくある月額課金制よりも、売り切り型を好む体質なのではないかと思います。スマホゲーム「Super Mario Run」の料金体系でも、そのような考えが感じられます。高品質な商品をつくり、それを正々堂々と「買ってもらう」ということに徹しているようにも感じます。
また、入手困難な状況で、「Nintendo Switch」を入手できることは、ユーザーにとっても、希少性がある、プレミア感を与えることができます。
wiiでは、こんなことがありました。
北米と欧州では長期にわたって供給不足が続き、月間180万台程度を生産したにも関わらず、高額な転売や抱き合わせ販売が問題化した。
今回の「Nintendo Switch」に関しても、一気に商品供給して、需要の先食いをせずに、安定的に供給することで、数年間分の安定的な業績を作っているように感じます。
任天堂の「追加アクセサリー戦略」
「品薄戦略」の他に感じるのが、本体以外に必要となる、アクセサリー類がけっこうあること。
- 「Nintendo Switch」本体:29,980円
- ゲームソフト:約5,000-7,000円
- amiibo:1,000-2,000円
- 追加購入)Nintendo Switch Proコントローラー:6,980円
- 追加購入)Joy-Con充電グリップ:2,480円
- 追加購入)Nintendo Switch キャリングケース:1,980円
「Nintendo Switch」本体:29,980円以外に、アクセサリー付属品:約10,000円、ゲーム関連:ソフトごとに10,000円といった感じで、客単価がどんどん上がっていきます。
アクセサリー付属品なので、なくてもゲームが遊べるわけですが、あるとその分ゲームが楽しく遊べるので、みなさん買ってしまうわけです。任天堂のうまい戦略です。
任天堂の「価格改定戦略」
任天堂の今までのゲーム機の販売戦略を見ている、新しいゲーム機を発売した1年後ぐらいに、さらなる普及促進のため、価格廉価版またはお得なセット商品の拡販モデルを出してきます。
たとえば、こんな感じです。
現在のNintendo Switchの定価:2万9980円(税別)
↓
改定後のNintendo Switchの定価:2万4980円(税別)
↓
再改定後のNintendo Switchの定価:1万9980円(税別)
↓
再再改定後のNintendo Switchの定価:1万4980円(税別)
「Nintendo Switch」本体だけで年間2,000億円の売上?
このままいくと、
(日本)年間200万台の出荷:3万円×200万台=600億円
欧州と米国もありますから、人口比等を考慮すると、
(世界全体)年間800万台の出荷:3万円×800万台=2,400億円
*本来は、任天堂から卸会社への卸値で計算しないといけませんが、ここでは、簡便的に定価で算出しています。
本体だけでなく、ソフトウェアや関連アクセサリー品などの販売もこれに加わりますので、これが5年ぐらい続いたら、累計売上が優に1兆円を越してしまいます。
任天堂も、利益を追求する企業ですから、いろいろ事業戦略を行うことは当然のことなのですが、自分などの一般ユーザーは、過去分も含め、けっこう任天堂に貢いでいるな、と感じます。生涯貢献金額、けっこうな金額になると思います。
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by 山内 溥