株式上場企業を対象に「顧問・相談役」の状況を報告する制度が始まるかもしれません。
- 「相談役・顧問の役割明示 経産省、透明性確保へルール」という日経の見出し
- 経営者でない「相談役・顧問」の存在
- 機関投資家から「透明性」「情報開示」の要望?
- 「相談役・顧問」制度の弊害
- 「相談役・顧問」状況の報告フォーマット
- 「相談役・顧問」の定義次第で抜け道?
「相談役・顧問の役割明示 経産省、透明性確保へルール」という日経の見出し
2017年5月中旬の日経新聞に、こんな記事がでました。
経済産業省は、上場企業を対象に、顧問や相談役の役割を明示するよう促すルールづくりに乗り出す。
経済産業省、金融庁、東京証券取引所が協力して、上場企業に対して、「相談役・顧問」の実態を報告する制度を新設するということです。
経営者でない「相談役・顧問」の存在
今回、問題となっているのは、創業者や社長などが取締役を退任し、表面上は経営から降りたのに、「相談役・顧問」として会社に残り、影の影響力を持ってしまうという点。
現・経営陣と旧・経営陣とのあいだでの軋轢というのは、なんだか経済小説で見かけるような話ですが、「老害」と称するような影響があるようです。
機関投資家から「透明性」「情報開示」の要望?
そういう裏の経営陣がいるという点で、その企業に投資する機関投資家などからは、「相談役・顧問制度の廃止」あるいは「実態の公表」という要望があるようです。
通常、会社を経営する取締役の選任は、株主総会での採決を経て決まりますので、機関投資家もその可否に意見表明を行うことができます。
しかし、そのような採決を経ずに、裏でコッソリと決まってしまう「相談役・顧問」という存在は、機関投資家から見ると会社の実態をわかりにくくしているようです。
「相談役・顧問」制度の弊害
上にあるような、「相談役・顧問」制度があることによる「老害」といった問題もあるでしょうが、「相談役・顧問」という制度が、全面的に悪いわけではないと思います。
長年勤められたベテラン社員を、定年退職後も「相談役・顧問」として会社に残ってもらう、というケースがあります。
この場合のメリットは、その方が長年蓄積されたノウハウを、後輩社員が活用でき、スキルトランスファーの時間をとれるということです。いわゆる「生き字引」です。
ノウハウを持ったベテラン社員が、ライバル会社などに流出するというのも防ぐことにもなるかもしれません。
また、日本人の場合、「会社一筋だった人が、定年退職後、人生のやる気を無くす」というパターンも多く、そういう人が「相談役・顧問」として、活躍できる場を少し残しておいてもらうというのは、ある意味で、理にかなっていたのかもしれません。
「相談役・顧問」制度のメリットもあるのでしょうが、弊害だった事案が多かったため、今回のような開示報告の対象となってしまったようにも思います。
「相談役・顧問」状況の報告フォーマット
今回の「顧問・相談役」の報告制度は、以下のようになります。
株式上場企業が取引所に提出している「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に、「相談役・顧問」の欄が新設される。
該当する企業は、その欄に、「顧問・相談役」の報酬の有無、勤務形態、業務内容を掲載する。
ただし、掲載は義務ではない。
「掲載は義務ではない」という点が、最初から強制せず、試作的な取り組みのようにも感じます。
たぶん、この報告制度を作っても、抜け道がいろいろと存在するからだと思います。
「相談役・顧問」の定義次第で抜け道?
この報告制度の対象となる「相談役・顧問」の定義が、難しいと思います。
「相談役・顧問」という名称を使わなければ、報告対象から外れるのでしょうか?
たとえば、研究系や技術系の組織だと「フェロー(Fellow)」という役職名があり、「相談役・顧問」と似たような存在として、君臨できそうです。
極めて高い能力を持った人材に対して特別待遇する役職の名称として用いられている
あるいは、「嘱託」という形でも、代替できてしまいそうです。
かといって、「コンサルタント」のような、取締役や社員以外で、会社への経営判断に重要な影響を及ぼす人、というようにしてしまうと対象者が多くなり、どこまで開示するのか、という問題点も出てきます。
なんだか、対象者定義のイタチごっこが起こりそうです。
代表取締役相談役や名誉会長なんていう体制の会社に、ロクな会社はない。
by 田淵 節也