新任取締役の経営手帳

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「プロ経営者」という生き方

「プロ経営者」について、ちょっと考えてみました。

 

「プロ経営者」になるには:経営に終わりはない by 熊谷正寿

 

 

玉塚元一さんがデバッグテスト会社の社長へ

2017年5月中旬に話題となったことの一つが「玉塚元一さんの電撃転籍」。

「玉塚元一さん」といえば、ユニクロを運営するファーストリテイリングの社長などを経て、直近ではローソンの社長(今は会長)をやられていた人物です。

余談ですが、ローソンの社長といえば、エネルギッシュな「新浪剛史さん」のイメージが、私の中にまだまだ残っています。「新浪剛史さん」が会社の顔として、ある時期、メディア等で活躍されていて、その印象によるものでしょう。「玉塚元一さん」も、「新浪剛史さん」に似たエネルギッシュな雰囲気なので、ダブって見えてしまいます。

そのためか、「玉塚元一さん」がローソンの社長(今は会長)ということをつい忘れてしいます。なお、「新浪剛史さん」は、ローソンのあと、2014年にサントリーホールディングスの社長に就任されています。

しかし、「玉塚元一さん」の経歴や今回の電撃転籍などを見ると、「プロ経営者」だなと実感します。まるで、アメリカの大リーグで活躍する「プロ野球選手」のようです。

 

 

アメリカに多い「プロ経営者」

アメリカの大リーグで活躍する「プロ野球選手」のように、アメリカでは職業「プロ経営者」というのが多数存在するようなイメージを持っています。

ある資料によれば、

アメリカ:25.6百万事業所

日本:6百万事業所

という統計から見れば、日本の4倍もの企業数がアメリカにあります。

企業数が多く、MBAなどの経営管理の資格が一般化しているアメリカでは、職業「経営者」という人が、日本よりも多くいる状況にあります。

「経営者」の母集団が多いほど、その才能や采配が優れた「プロ経営者」の人数も多いのだと思います。(統計的なものは調べていませんが、職業の専門化が進んでいるアメリカでは、おそらく多いでしょう。)

 

 

日本の社長は、寅さんの「タコ社長」のイメージ

一方、日本の社長はというと、会社ごとに特有の性質が内在したりして、「プロ経営者」という人が現れにくいように感じます。

一般的な人のキャリアとして、一つの会社に勤め、同じ会社内(あるいはグループ会社内)のことを知見として習得し、管理職→担当役員→社長というキャリアパスが、まだまだ残っており、企業内ゼネラリスト的な社長が多くなってしまいます。

 

あるいは、中小企業の経営者。

イメージとして、映画「男はつらいよ」で登場する、寅さんの家の隣の印刷工場の「タコ社長」です。零細産業でありながら、社員を抱えており、その資金繰りに日々奮闘するという姿。

あれは、あくまでフィクションで、映画の中での話ですが。タコ社長が「印刷業の将来を見切って、新たな業界にチャレンジ」というようなドラスティックな展開というのは、難しいと思います。

しかし、多くの日本の中小企業では、そういう変革のジレンマを抱えているように感じます。

 

 

企業を変革「できる経営者」と「できない経営者」

経営者が変わったら、「業績が回復した」「企業価値が向上した」、米国流のドライな経営手法で大幅なリストラで企業を再起させたという話、そんな事例がいろいろとあります。

日本のような「生え抜きの社長」「創業社長」「二代目などの世襲社長」など、会社に根付いた社長が多いと、会社内部の事情などを他よりも知っている一方で、会社への思いれが強く、変革しにくいということもあります。

そういう場合、 ズルズルと「負の遺産」を引きずってしまい、再起不能に陥る可能性が高まります。

 

 

企業の成長とともに、経営能力を磨く

日本を代表する経営者とも言える、ソフトバンクの「孫正義」さん。

今でこそ、ケータイキャリアやITを代表する会社となったソフトバンクも、20年ほど前は、IT情報誌を発行している出版会社でした(出版以外にも、ソフトウェアの流通ということも行なっていました。)

初期のソフトバンクは、社員1-2名ぐらいの状態で起業され、「いずれ売上高が兆を超える企業になる」とミカン箱の上で、社員に説明したら、翌日社員が辞めてしまった、というエピソードなど、多くの武勇伝があります。 

インターネットが拡大し、米国ヤフーへの出資をしたところぐらいから、ソフトバンクは変容し、「IT情報革命」の真ん中のポジションで進むようになったように感じます。

大学生時代に、たまたま、孫正義さんの講演が、大学であり、拝聴したことがあります。ちょうど変容する前で、「300年続く企業のDNA」「日次決算」などのお話を聞いた覚えがあります。今から思えば、大変貴重な経験でした。

企業規模が大きくなるにつれて、経営管理能力を身につけられた、という話もあり、それを飛行機の操縦に例えられています。

創業時・企業規模が小さい時は、感覚的操縦の軽飛行機に似ていて、パイロット(経営者)の技量に依存するところが大きい。

企業規模が大きくなると、計器操縦のジェット機のように、パイロット(経営者)は、操縦というよりも、先を見て対応するという危機管理能力が必要になる、というような話です。

自分自身も、いくつか会社を経営してみて、たしかに、そのとおりのような気がします。

 

 

「アメーバ経営」の現場管理手法

一時期、京セラ創業者の「稲盛和夫さん」の「盛和塾」で勉強させていただいたことがあり、「心の経営」「アメーバ経営」「コンパ」などが印象に残っています。

前述の「孫正義」さんも、ある時期、稲盛和夫さんから学ばれていたことがあると聞いています。ソフトバンクの有名な「日次決算」は、「アメーバ経営」から発展したものなのではないかと思っています。

 

 

大手家電メーカーグループの元社長の失敗経営

「プロ経営者」といえば、日本を代表する電機メーカーで、海外子会社の社長までされていた方を思い出します。

その方は、経営手腕が素晴らしい、というよりも、次々と会社を移り渡り、社長や経営者になる、世渡りの上手な点が「プロ経営者」らしさを感じます。

あるとき、経営手腕を買われたのか、あるいは、スカウトされたのか、とある外資系の日本法人の社長に就かれました。その日本法人の業績が落ち込んでいて、回復した際の業績連動報酬も、就任時にちゃんと付与されていました。

そして就任して1-2年後。業績は回復せず、その社長もいつの間にか消えて、本国の本社役員が、日本法人の社長となりました。

ダメだったら、すぐに身を引くというのも、「プロ経営者」には必要な要素なのかもしれません。

 

 

社長のバトンタッチがうまく行かない、日本の会社

日本の会社の社長といえば、創業社長から次の社長に渡すというのは、なかなか難しいように感じます。

大企業で有名な事例としては、

  • ファーストリテイリング
  • ソフトバンク
  • 三洋電機

などは、創業社長の偉業が大きいので、それを引き継いで、経営をするというのは、なかなかハードルが高そうです。

 

 

創業者の「呪縛」に陥る

株式上場しているような大手の企業だけでなく、中小企業でも、社長の交代というのは、大変な事案です。

日本各地で「事業継承セミナー」などがよく開催されているのは、その困難が現れていることの表れだとも思います。

一から会社を作られた創業者から、会社を引き継いだ場合、たとえば、創業者が始めた事業の一つが、今は業績低迷となっていて事業廃止したいが、創業者の思いも詰まった事業なので、社内の声もあり、なかなかドラスティックな対応ができずにいる、というケースもあります。

いわば「呪縛」的なものです。暗黙的な了解のもとで成立していて、それに対しては、社内の誰もが反対することができない、という感じです。

 

 

京都の老舗が何百年も続く秘訣

よく「三代目が会社を潰す」と言われています。

しかし、京都に行くと、何代も、つまり何百年も家業が続くお店がいろいろあります。そのような京都の老舗が、事業を続けられる秘訣というのは、以前聞いたことがあります。

たしか、こんな感じだったと思います。

  1. お店の大旦那(主人)が、店員の中で一番の働き者を、娘の婿にする
  2. 婿は若旦那となり、大旦那に監視されながら、より一層働き者になる。
  3. 若旦那が大旦那となったときに、店員の中で一番の働き者を、娘の婿にする
  4. (上記の2-3が繰り返される)

仕事がよくできる人を娘の婿に迎えることで、事業を安定的に継続できるわけです。

しかし、これが成り立つのも、親が娘の結婚相手を用意していた頃までで、今のような自由恋愛の時代ではなかなか難しいかもしれません。

 

 

プロ経営者の格言

「プロ経営者」として活躍されている方の言葉をいろいろ集めてみました。

こういう言葉を見ると、「経営者」というのは、小手先で通用するものではなく、「経験業」だと感じます。

  • 現場に立ち、どうしたらお客様が今より満足してくださるかを考える
  • 立派な経営者は若い人と話すことが好きで、みな聞き上手
  • 経営者というのは、立ち止まったら負け
  • 任せるところはその分野の得意な人に任せる
  • 経営者は結果を出すこと以上に、会社が続くことを意識する
  • 経営理念を共有すること
  • 現場から出たアイデアを事業に反映させる
  • 社長は全身全霊でみずからの人生をかけて経営をすべき
  • 常に備えている必要がある
  • 周囲からどんなに反対されても、自分の五感を働かせて導いた信念は貫かねばならない
  • 大局観を失わず、恐れずに動くべき
  • 経営で大事なことはコミュミケーション、チャレンジ、コミットメントの3つの「C」
  • いかに社員の力をひとつの目標に向かって集結させるかが大事
  • 100人経営者がいれば100通りの考え方がある
  • トラブルのない経営なんてあり得ない
  • 現場に刺激を与え続けることが大事
  • 雇用を守って、投資もして、その上できちんと利益を上げるのがプロの経営者
  • 経営者はジャッジと挫折の回数で磨かれる
  • 困らない経営者に進歩はない

 

 



経営に終わりはない
by 熊谷正寿

 

 


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