世界最大の運用資産額である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「2019年度 ESG活動報告」を読んでみました。
世界最大の運用資産額である日本の年金
日本の年金の運用団体、「年金積立金管理運用独立行政法人(略称:GPIF)」は、世界最大の投資家とも言われ、運用資産は約150兆円となっています。
2019年度(2020年3月)の、GPIFの運用状況を見てみると、
- 運用資産額: 151 兆円
- 保有銘柄数: (株式) 5,111 銘柄
- 保有銘柄数: (債券) 13,919 銘柄
- 収益額(累積): 57.7 兆円
という状況になっています。
毎月の年金保険料が運用されているわけではない
働いている私たちの世代では、厚生年金や国民年金の年金保険料として、給与等から毎月引き落としされています。自分で年金を積み上げるiDeCoのように、その保険料がGPIFで運用されているイメージがありますが。
実は、その保険料はGPIFでそのまま運用されているわけではありません。
日本の年金は「賦課方式」で、年金保険料として現役世代から徴収されたものは、そのまま年金受給世代の支払いに充てられる、「世代間扶養」の仕組みになっています。
つまり、GPIFは、余った分を、将来の支払いに備えて運用されています。
ちなみに、日本の年間の、年金支給額は約50兆円。GPIFの運用規模は約150兆円で巨額ですが、その3年分の資産しかありません。
GPIFはマイクロソフトやアップルに1兆円投資、日本の主要な上場企業も保有
GPIFの保有している銘柄は、定期的に公開されています。
2020年3月末時点の状況を見ると、外国株式では、
- Microsoft: 1,157,624,196,918円 (1兆1,576億円)
- Apple: 1,079,106,215,350円(1兆791億円)
- Amazon: 826,332,845,896円(8,263億円)
- Alphabet(Google):723,583,978,070円(7,235億円)
- Facebook: 387,336,158,949円(3,873億円)
- Alibaba: 337,498,229,516円(3,374億円)
といった、GAFA+M銘柄にも、かなりの金額を投資していることがわかります。
また、日本株式では、2020年3月末時点で2389銘柄にGPIFは投資していて、日本の全上場企業というわけではありませんが、かなりの多くの国内上場企業も保有しています。
GPIFがESGを重視している
そのGPIFが、2020年8月に「2019年度ESG活動報告」を発表されています。
内容としては、目次を以下のような感じです。
<「2019年度ESG活動報告」の主なコンテンツ>
- 【第一章】ESGに関する取組み
- ESG指数の選定とESG指数に基づく運用
- 株式・債券の委託運用におけるESG
- スチュワードシップ活動とESG推進
- 指数会社・ESG評価会社へのエンゲージメント
- オルタナティブ資産運用におけるESG
- 海外公的年金・各種団体との協働
- TCFDへの賛同と気候関連情報開示
- ESG活動の振り返りと今後について
- 【第二章】ESG活動の効果測定
- ESG指数のパフォーマンス
- ポートフォリオのESG評価
- ESG評価の国別ランキング
- ESG評価間の相関
- 女性の登用に関する日本企業の評価
- ポートフォリオの気候変動リスク
- Climate Value-at-Riskを用いたリスクと機会の分析
上目次を見ればわかるように、大きく以下の2つの内容に分けられます。
GPIFのESGの取り組み
1つ目は「【第一章】ESGに関する取組み」という内容で、GPIFが考えるESG、GPIF自身が実践しているESGの取り組み、投資先企業に対するESGの要請などといったことについて、まとめられています。
前述したように、国内企業の多くに投資している関係上、当該企業へのESG対応の圧力というのはジワジワと強めてくるのではないでしょうか。(私の周りの、上場会社の担当者らも、このあたりはソワソワしています。)
ESGと投資パフォーマンスの分析
2つ目は「【第二章】ESG活動の効果測定」で、ESGと投資パフォーマンスの関連性について分析をされています。
ESG自体は、やらないよりは取り組んだ方が社会全体にとてよいものですが、だからといって、たとえば、その分コスト増などで、収益を圧迫するような事態になるようでは、ESGに取り組んでいる企業に投資しても、投資損になる可能性があります。
ここ数年、多くのアナリストらが、ESG積極企業の投資パフォーマンスについて、分析をしてきていますが、明確な結果というのが、まだ出ていません。
今回、GPIFが改めて、ESGの投資フォーマンスについて、いろいろな視点で分析されています。
結果的には、いい結果もあれば、明確な違いのない結果だったりと、必ずしも「ESG企業への投資 → 投資パフォーマンスがよい」ということもにはなっていませんが、
- 投資スパンが短期ではなく長期になると変わるのでは?(分析は3年程度の短期)
- ESGは非財務系の情報が多く、比較の技術がまだ確立できていない
などといった理由が考えられています。
上記の投資パフォーマンスのほかに、「ポートフォリオの気候変動リスク」「Climate Value-at-Riskを用いたリスクと機会の分析」といった点がまとめられていて、個人的には、コチラの内容が興味深かったです。
簡単に紹介すると、今後、地球温暖化対策やSDGs対応などが社会的に進んだ場合、日本が持つ技術が貢献する場面が多いにあり、日本企業は外国企業よりも収益機会が多い、という予測結果が出ています。これはなかなか面白いストーリーです。