電気の原価を、電力会社の財務諸表から調べてみました。
電気代高騰問題
先日、新電力での電気代高騰問題が起こりました。
これは、市場連動型の電気代を契約された場合、市場での卸値の電気代が高騰し、結果的に、通常時の10〜20倍の電気代を払わなくてはいけなくなったという問題です。
話題となった新電力会社の電気代の単価で見ますと、このような状況です。
前年比で約10倍の100円/kWh
足元では関東エリアで250円/kWhと、前年比で25倍
電気の原価って、どのぐらい?
ここで、ふと「電気の原価はどのぐらいなのだろう?」というのが気になりました。
発電装置を回してれば、電気として売れていくわけで、収益率はかなり高いのではないか?(もちろん、発電方法・発電装置の大きさはいろいろで、それにより初期投資やランニングコストは違いはあるものの、典型的な装置産業です。)
そこで、「電源開発」(「J-POWER」という名称でCMなどをやっています)という、電力を作り、東京電力や関西電力などの電力会社に卸販売している会社の財務諸表から、電気の製造単価を計算してみたいと思います。
電源開発(J-POWER)の電気単価
「電源開発」の2020年3月度の有価証券報告書から、以下の数字を拾ってきました。
発電事業・電気供給業(2020年3月度)
- 販売された電力量:73,131 百万kWh
- 上の販売金額(電力料・託送料):631,011 百万円
電源開発が発電した電気を、東京電力などの電力会社に販売したものです。
単純に計算すると、
電力販売単価は 631,011 百万円 ÷ 73,131 百万kWh = 8.62 円/kWh
これには、電源開発の販売利益が入っているので、それを排除した原価を試算してみます。
残念ながら発電事業だけの製造原価総額がわからないので、「電気事業」のセグメント情報から
- 売上高:6,860億円
- セグメント利益:274億円
から利益率を求めると、274億円 ÷ 6,860億円 = 3.99%。
これら数値を用いると、
- 販売単価:8.62 円/kWh
- 製造単価:8.27 円/kWh
となります。
この「3.99%」という数字は粗利率にしては低く、感覚的には、粗利30%はあるかと思います。セグメント利益の中に、販管費的な費用を負担しているからでしょう。
東京電力の電気単価
同じように、「東京電力ホールディングス」の2020年3月度の有価証券報告書から、以下の数字を拾ってきました。
電気事業(2020年3月度)
- 販売電力量:222,277 百万kWh
- 電気量収入:4,509,693 百万円
これは、東京電力から、法人や一般家庭等に電力を販売したものです。
単純に計算すると、
電力販売単価は 4,509,693 百万円 ÷ 222,277 百万kWh = 20.29 円/kWh
上と同じように、電気の製造原価が出ていないため、
電気事業でのセグメント状況から
- 電気事業営業収益:6,032,729 百万円
- 電気事業営業費用:5,735,057百万円
から利益率を求めると、5,735,057百万円 ÷ 6,032,729 百万円 より
電気事業の利益率は4.93%となります。
これら数値を用いると、
- 販売単価:20.29 円/kWh
- 製造単価:19.29 円/kWh
となります。
おそらくこれも販管費などのいろいろな費用が入っているので、実際の製造原価とはちょっと離れているかと思います。
電力会社は、上の電源開発のような電力卸から仕入れる他、自らも発電しています。発電キャパもありますが、経済合理性を考えれば、電気の製造原価と仕入原価が似たようになるはずで、おそらく、電力卸での8円/kWhくらいで電気を製造できるのではないでしょうか。
一般家庭の平均的な電気単価
総務省統計局の統計から、
一人暮らし:月185kWhで5,200円(季節差4,700~6,200円)
2人世帯 :月320kWhで8,900円(季節差8,000~10,700円)
3人世帯: 月370kWhで10,400円(季節差9,400~12,500円)
4人世帯:月400kWhで11,200円(季節差10,100~13,400円)
5人世帯:月450kWhで12,600円(季節差11,300~15,100円)
6人以上世帯 :月560kWhで15,700円(季節差14,100~18,800円)
という数値から、おおよそ 28円/kWh で利用していることになります。(いつ時点のデータか不明)
さきほどの東京電力での数値「販売単価:20.29 円/kWh」は、法人等の大口利用者も含まれた数値ですので、一般家庭としては この28円/kWh ぐらいの単価でしょうか。
電気の卸から利用者までの費用関係
以上の結果を簡単に図式化するとか、こんな感じになります。
電力会社は、 8円/kWhで仕入れた電気を、28円/kWhで販売していることとなり、だいだい3倍の価格になっています。飲食店と同じような粗利率で、納得のいく数字です。
それにしても、8円/kWhの電気が、100円〜200円/kWhで売れるというのは、すごいビジネスですね。