「取締役はエライ」という幻想と現実についてまとめてみました。
- 取締役のイメージ:取締役はビジネスの決定に関わる?
- 取締役のイメージ:取締役はお金をたくさん稼いでいる?
- 取締役と従業員の違い:法律で守られている従業員、守られていない取締役
- 取締役と従業員の違い:取締役は責任を負わせられる
- 取締役と従業員の違い:取締役はいつでも辞任できる
- まとめ
一般的に、「役員(取締役)」というと、なんとなくエライというイメージがあります。
私も会社員時代には、「役員(取締役)」は、
たとえば、
- ビジネスの決定に関わる
- お金をたくさん稼いでいる
というようなイメージを勝手に想像し、雲の上の存在というか、普段は社員とは接することができない人と思っていました。
しかし、紆余曲折あり「取締役」という立場になり、それを数年やってみて、またいろんな会社の取締役にお会いする機会を経て、「取締役」の現実と理想の違いに気付かされることが多くありました。
「エライ」というのにいろいろな定義がありますが。。。ここでは、いくつかの視点から、「取締役がエライ」といイメージの正誤を検討してみたいと思います。
取締役のイメージ:取締役はビジネスの決定に関わる?
基本的に、取締役は意思決定するのが本業とも言えます。もっとも、大企業ならば意思決定だけで済むことがありますが、取締役自らが営業したり、作業的な業務を行ったりと意思決定以外を行うことがあります。
しかし、その会社の稟議上の権限の付与設計しだいで、取締役でなくとも従業員でも、ビジネス上の意思決定に関わることはできます。取締役ではなく従業員の立場で、執行役員の形で業務の責任者になったりすることもできます。
なお、会社法で定められた意思決定の中には、取締役会や株主総会での決議が必要なものがあり、そういうものは、従業員の立場では意思決定することができません。
結果は ⇒ △
取締役のイメージ:取締役はお金をたくさん稼いでいる?
取締役や従業員での平均的年収の調査を調べると、以下のようなものを見つけました。
取締役の平均年収
- 専務取締役:2,433万円
- 常務取締役:1,885万円
- 取締役:1,556万円
「2015年 役員報酬の実態に関する調査」(【調査対象】上場企業1,500社と未上場企業から任意に抽出した1,000社の計2,500社、産労総合研究所)より
従業員の平均年収
- 部長:786万円
- 課長:631万円
- 係長:482万円
- 一般社員:257万円
「平成29年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)より
調査主が異なり、調査された時期や企業も異なるので、単純に比較するのは難しいのですが、ざっくりとした平均で比較すると、取締役の方が収入が多いという結果となります。
結果は ⇒ ○
ここまでみると、「取締役はエライ」というイメージは、たしかにその通りだということがわかります。しかし、一方で以下のような責任もあります。
取締役と従業員の違い:法律で守られている従業員、守られていない取締役
従業員の場合、労働中に事故等があれば、労災が適用されます。また、会社を辞めても、失業保険を支給されることがあります。
一方、取締役の場合は、雇用する側ということとなり、このような労災・雇用保険が使えません。
雇用する側(取締役)と雇用される側(従業員)の違いです。
なお、取締役と従業員を兼ねている場合は、つまり取締役の身分でありながら雇用保険を払っていると、使える場合があります。
以前、こんな記事にまとめたことがあります。
従業員の場合は、所定の労働時間が定まっていて、超過する場合は残業代等が支給されることになります。一方の取締役の場合、労働時間という概念がないので、基本的に24時間365日働いても、1分も働かなくとも、懲罰がないということになります。
取締役と従業員の違い:取締役は責任を負わせられる
取締役には「善管注意義務」と「忠実義務」というものが課されています。 会社である「法人」というものは、それ自体では行動することができないので、その行動を取締役らに委任されている形になります。
もし、取締役の誤った行動で、何かしらの損害が発生した場合、損害賠償請求の可能性があります。
法律上「会社から受けった報酬の4年分」が最低責任限度額となります。たとえば、年収1000万円の取締役ならば、4000万円までは責任を負うこととなります。なお、株主総会・取締役会の決議で、この限度額を変えて、責任の一部免除することができます。
従業員の場合でも、故意や重大な過失があるときに限って損害賠償責任を負うことがあります。これはケースバイケースで判断されることになります。
取締役と従業員の違い:取締役はいつでも辞任できる
従業員が、会社を自ら辞めるときには、業務の引き継ぎはもちろんのこと、離職票の発行など会社によってはいろいろな手続きが必要なことがあります。そのため、すぐに会社を辞めることはできず、2週間ぐらいとかかかることがあります。
取締役の場合、会社法上、辞任届を出せば、いつでも辞めることができます。なお、自らの意思による退任以外で辞めさせる、つまり解任は、総会決議となります。
まとめ
取締役はたしかにエライこともあるけど、ときどき、事業の遂行失敗の責任をとって取締役が辞任ということがあるように、その分大変なこともあるというのが現状でしょうか。
諸君にはこれから3倍働いてもらう。役員は10倍働け
by 土光 敏夫