フトした経緯で引き受けた「社外取締役」。実は「監査等委員」である取締役だった。「監査等委員」とは、なんだ?
とある上場会社より、「社外取締役」の就任依頼を打診され、受諾の旨返事しました。
ところが、しばらく経ってから、よく聞くと、単なる「社外取締役」ではなく、「監査等委員」である取締役という立場に就任させて頂くことになるらしい。
「監査等委員」である取締役?
会社員時代に雇われ役員をやったり、自分で起業して代表取締役になったり、会社運営(設立や変更登記など)に必要な会社法の知識は、その過程で身につけてきました。
しかし、この「監査等委員」である取締役というのは、初めて聞く単語。
「監査等委員」である取締役?
簡単に調べてみると、どうやら、こういうことらしいです。
↓
「監査等委員」である取締役
「監査等委員」の概略
この「監査等委員」の概要を簡単にまとめると、
- 2015年の会社法の改正でできた仕組み。
- 従来の「監査役会」を廃して、過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される「監査等委員会」を設置する。(この会社を「監査等委員会設置会社」という)
- その監査等委員会のメンバーが「監査等委員」である取締役。
- 従来の監査役・監査役会が担ってきた経営者に対する「監査」以外に「監督」も担う。取締役会での議決権も持つ。
- 「監査等委員」である取締役の任期は2年、それ以外の従来の取締役の任期は1年。
詳しくはwiki↓をご参考ください。
会社法が改正されて、すべての会社が、この「監査等委員会設置会社」にならなければいけない、というわけではなく、企業が決められます。従来通りの、「監査役」「監査役会」設置会社のままでも問題ないです。
「監査等委員会設置会社」が出てきた日本の事情
こんな「監査等委員会設置会社」の仕組みが、日本に現れたのは、おそらく以下のような背景と想像します。
- 従来、日本の株式上場企業は、「社外取締役」の設置が求められてきた。ただし、法的に義務ではなく、あくまで努力義務。
- 「社外取締役」を入れることで、企業経営にリスクとチャンスのバランスがとれるという考え方がある。
- 海外のファンドの運用会社などは、投資先会社での総会議案などを支持するかどうかの材料の一つとして、「社外取締役」の有無を見ていて、日本は満たしていない企業が多かった。当然、海外投資家からの支持を得にくい。
- 海外の企業は、「所有」と「経営」が分離していて、株主の中から「取締役」を選び、実務者の中から「執行役」を選び、経営する。しかし、日本の大半の企業は、そうではない。「所有」と「経営」が一緒のケースが多く、また「取締役」を、社内人事の職位の一つとしてとらえていることが多い。
- さらに、現実的な問題として、日本の企業においては、プロ(専業の)経営者が少なく、「社外取締役」を引き受けることができる人が少ない。
- 「社外取締役を設置せよ」という声と、「設置したくともできない」という日本の会社の状況が、平行線を辿っていた。
- そこで、「監査役」を「社外取締役」ということにしてしまえば、この「社外取締役」問題を解決できるのではと、この「監査等委員会設置会社」の仕組みが浮かび上がる。
- また、従来の「社外取締役」は、たんなる「アドバイザー」的な役目しか果たせなかった。監査役の権限を「社外取締役」が担えば、企業のコンプライアンス・ガバナンス機能が強化されるかもしれない、という意見がでる。
- さらに、「監査役」の人をそのまま「社外取締役」にスライドさせれば、員数不足問題も解決できる。
上の内容は、あくまで私見を書いたもので、実際のところは、もうすこし深い意味や背景があると思います。
施行後2年間で600社が「監査等委員会設置会社」に移行
2016年10月末現在、この「監査等委員会設置会社」に移行している会社は約600社。約2年間で、この数字が多いのか少ないのかは人それぞれの意見があるにしても、広まっていることは確かです。
参考)下のサイトで、「監査等委員会設置会社」移行会社の一覧を日々更新されていて、移行状況がわかります。
監査等委員会設置会社への移行を公表した上場企業一覧(2016年)(2016年10月31日現在) - 弁護士川井信之(東京・銀座)の企業法務(ビジネス・ロー)ノート
とりあえず、「監査等委員」である取締役の概要はわかりましたが、実務上、何をすべきかなどは、後日まとめてみたいと思います。
社外取締役の任務は、すべての株主を代理してその利益を最大化するという観点から、経営の成果を客観的に判断することです。
by 宮内義彦