創業したてで事業収益がまだ確立していないベンチャーにとって、手元のキャッシュは非常に重要です。
- 創業時の手元キャッシュは重要です
- 創業時に利用できる融資制度
- 「経営者の連帯保証」への恐怖
- ベンチャーキャピタルからの出資にも「代表者の買取保証」がつく場合も
- 新しい資金調達手段となるか?「株式投資型クラウドファンディング」
- 資金調達は早めの準備が肝心です
最近、ビジネスをローンチしようとしているベンチャー何社かの資金調達の相談を受けています。
自分の経験を振り返っても、会社の資金調達はなかなか大変なテーマでした。「お金を借りたり」「出資を受けたり」というのは、創業したばかりの経営者にとって未知の領域で、「どうすればいいのか」と戸惑うことが多いです。
創業時の手元キャッシュは重要です
創業し、その1ヶ月後にリーマンショックが発生。ビジネスのターゲットとしていた企業の予算がカットされ売上収益の確保が閉ざされました。ベンチャーキャピタルから資金調達をしようとしても、リーマンショックで彼らの出資の意欲が減退していました。こうした状況で、創業後の数ヶ月はお金が出て行くばかりの状況です。
資金調達として、
- 日本政策金融公庫の創業融資制度
- 保証協会の創業融資
- 自治体の商工融資あっせん制度
といったものを活用し、その間に新たな商材も準備できて、なんとか事業を進めることができました。
手元のキャッシュは、飛行機の滑走路のようなもので、キャッシュがあればあるほど、離陸まで十分な距離を取ることができ、飛び立ちやすいわけですが、キャッシュが少ないと、短い滑走で飛び立つこととなり、十分な離陸速度がとりにくいことがあります。短い滑走で飛び立たせるカタパルトのような、急発進可能なキラー商材がない限り、なかなか難しいです。
創業時に利用できる融資制度
会社が銀行からお金を借りようと、名前が知られた大きな銀行に行っても、創業間もないベンチャーはまず借りることができません。
日本の銀行は担保主義なので、借り入れ金額に相当する担保(あるいは入金確実な案件)がないと、借り入れることが難しいのです。現実的には、お金を持っているところには貸して、お金を持っていないところには貸さないという、ほんとうにお金が必要とするところにお金が回らない現状です。
創業時に、金融機関からお金を借りるところとしては、以下のようなものがあります。
日本政策金融公庫 新創業融資制度
日本政策金融公庫の所定の事業計画書に必要事項を記入し、提出すると、審査が始まり、面談をし、融資可能金額が算出されます。
今から振り返ると、この日本政策金融公庫の融資が、それほど手間なく借りることができたような感じがします。
また、この資金は、経営者の保証なしで借りることができます。
参考)新たに事業を始めるみなさまへ創業支援|日本政策金融公庫
信用保証協会の創業融資
中小企業が市中金融機関から融資を受ける際に、その債務を保証することで、中小企業の資金繰りの円滑化を図ることを目的としている
地域ごとに信用保証協会というのが存在し、担保がない企業を代りをしてくれる感じです。
実際にお金を借りるのは、金融機関からになりますが、その前に信用保証協会での承認を取っておくことになります。
信用保証協会に提出しても、審査の結果、「承認できない」ということもあります。事業計画などがしっかりしていないと、この信用保証協会の承認をもらうことができないので、借りる際には対策が必要です。
リンク:東京保証協会
参考)東京信用保証協会
自治体の商工融資あっせん制度、セーフティネット保証制度
会社の本社所在地のある自治体に商工融資あっせん制度があります。
- 営業資金
- 設備資金
- 事業転換・多角化資金
- 地球温暖化・環境対策特別資金
- 年末特別資金
といった名目の資金が用意されていて、借り入れ目的に応じて利用することができます。
自治体から借りるわけではなく、自治体が借り入れをサポートしてくれるようなイメージです。自治体からのあっせんということで、金融機関からお金を借り入れやすくなり、また借入利息が減免されたりします。
流れとして、
- 自治体に必要書類を提出。面談。
- 自治体でのあっせん承認
- 最寄りの地域金融機関での借り入れ
というように進みます。
また私の時は、「緊急保証制度」というが始まり、前年度比べて売上高や利益率が悪化した企業は、対策のための資金を借りることができました。
「経営者の連帯保証」への恐怖
日本政策金融公庫は、無担保・無保証で借りることができますが、それ以外の融資は、たいてい経営者の保証を入れさせられます。つまり、「会社からの返済ができなければ、社長が代りに返済します」ということです。
これは日本の商慣習のようなものだと思います。
経営者の保証というと、ユニクロ柳井社長が、上場するまで金融機関が保証をはずしてもらえなかった、というエピソードを思い出します。今でこそ売上が兆円という規模になりましたが、上場直前のときは、ユニクロのビジネスモデルを拡大しようとしていたときで、それでも業績が伸びていた時です。
そういう状態の会社でも、金融機関からはお金を借りる際には、経営者の保証を入れなくてはいけない。
なお、株式上場する際、経営者が債務保証を行なっているというのはNGということで、代表者の保証がはずすという慣習になっています。
創業した人の中には、この「経営者の保証」に不安を感じている人が多いです。上記のユニクロの場合でも、何十億円という保証を個人が行ない、万が一、会社が傾いた場合、果たして経営者が弁済できるのか?という疑問があります。
ベンチャーキャピタルからの出資にも「代表者の買取保証」がつく場合も
融資の場合ですと、資金調達したお金は返済がするというのが基本です。会社が返済できなければ、連帯保証となった経営者が返済するというのは、しょうがないと思います。
ならば、返済義務のない出資ならば安全かというと、最近はそういうわけにもいきません。
投資契約に「経営者の買取保証」が入る場合があり、例えば事業計画が予定通り進まず、事業がストップしてしまったりすると、ベンチャーキャピタルが出資した株式を、経営者に買い取らせて、ベンチャーキャピタルは撤退するということです。買取金額が、出資金額なのか、その時の株価(企業価値)なのかは条件次第でしょうが、出資金額ですと、なかなかやっかいなことになります。
ベンチャーキャピタルから出資を受ける際には、投資契約の内容をきちんと確認した方がよいと思います。
新しい資金調達手段となるか?「株式投資型クラウドファンディング」
最近、「株式投資型クラウドファンディング」という仕組みの存在を知りました。
昔あったような「グリーンシート」のような感じで、未上場会社の株式に投資することができるようになっています。
また、投資するだけでなく、「クラウドファンディング」の要素も取り入れ、投資者への返礼などを付加したような仕組みになっています。
資金調達は早めの準備が肝心です
資金調達の手続きが順調にいっても、会社に入金されるまでには、2-3ヶ月がかかりますので、早め早めに対応することが大切です。
また、申請している資金調達がダメだった場合に備えて、複数の資金調達を進めておくことも大切だと思います。
最初の資金調達には一番苦労しました。経営者として、そこが一番頭を使うところだと思います。
by 野尻 佳孝