「日本版リストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付株式)」とは?
- 「譲渡制限付株式」とは?
- 株式報酬
- 「日本版リストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付株式)」とは?
- 「譲渡制限付株式」の「譲渡制限」とは?
- 二つの種類「事前交付型」と「事後交付型」
- 付与者の社会保険・税金はどうなる?
- 会社側の税制
- 譲渡制限付株式を付与するための導入手順
- 参考資料)特定譲渡制限付株式の導入の手引き
- 使いやすい「株式報酬制度」はどれか?
先日、ある株式上場会社の株主総会の決議内容を見ていて、気になる言葉がありました。
譲渡制限付株式の付与のための報酬決定の件
上場している会社で「譲渡制限付株式」というのは珍しい。というか、そういうことはありなのか?と思いました。
「譲渡制限付株式」とは?
未上場のベンチャーなどでは、株式に譲渡制限をつけて、会社の了解を得ないで株式の売買を行うことを禁止しているのが一般的です。
そうしないと、株式が散らばってしまい良からなぬ人のところに渡ったりなど、IPOなどの際の障害となりえるからです。
株式上場の際には、そういう譲渡制限は解除して、株式を上場させることになります
そうでないと、投資家が売買の都度、会社へ了解を取らなくてはならず、とても大変なことになるからです。
一方、株式上場会社の場合、「譲渡制限」がない株式が、一般的なのですが、それが「譲渡制限付株式」を付与するとは、どういうことなのでしょうか?
調べて見ると、どうもこれは新たな株式報酬の仕組みのようでした。
株式報酬
株式報酬といえば
「ストックオプション」
というのが、名称的にだいぶ定着しています。
IT系の会社に上場前に入社し、ストックオプションをもらい、上場後にストックオプションを行使してかなりの報酬を得た、というような話で出てくるのが「ストックオプション」です。
最近では、ストックオプション以外だと「株式交付信託制度」(従業員向けには「ESOP」・役員向けには「BIP」)というのもでてきています。
そして、今回の「譲渡制限付株式」です。
「日本版リストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付株式)」とは?
今回の「譲渡制限付株式」は、「日本版リストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付株式)」と呼ばれています。
「報酬債権を金銭ではなく、株式で受けとる」ということになります。
仕組み的には、報酬を未払いにして、その債務を株式化するようなものです。「デット・エクイティ・スワップ」(DES)に近いです。未上場のベンチャーなどが、社長などの報酬を未払いにして株式化するのによく使われる手法に似ています。
「譲渡制限付株式」の「譲渡制限」とは?
この「特定譲渡制限付株式」の「譲渡制限」とは、一定期間の譲渡制限が設けられていることを言います。
具体的には、保有すると、株主総会の議決権や配当を受け取る権利など、通常の株式としての機能は変わりませんが、株式市場等への売却が一定期間禁止となっています。
また、その期間が終える前に、その会社を退職すると、その株式は会社に回収されるような条件が付与されることもあります。
二つの種類「事前交付型」と「事後交付型」
株式報酬には、事前交付型と事後交付型のものがあります。
専門的な説明としては、
事前交付型とは、職務執行開始後速やかに譲渡制限の付いた株式を交付する形態のものを指し、事前交付型リストリクテッド・ストックが該当
事後交付型とは、職務執行期間が終了した後に株式を交付する形態のものを指し、事後交付型リストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェアが該当
となっています。
上で説明したような、売却不可期間が定められた「譲渡制限」は、主に「事前交付型」を想定されています。
付与者の社会保険・税金はどうなる?
厚生年金・健康保険などの社会保険や住民税・所得税などの税金は、所得金額によって金額が決まっています。
この譲渡制限付株式の付与者の社会保険・税金はどうなるのでしょうか?
経済産業省がまとめた資料によると、
健康保険・厚生年金保険の保険料の額や保険給付の額の計算の基礎となる「標準賞与額」の範囲は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他名称を問わず、被保険者が労務の対償として受けるすべてのもののうち年 3 回以下のもの(ただし、大入り袋や見舞金のような臨時に受けるものを除く)とされており、役員に対する株式報酬についても、原則として標準賞与額に含まれるものと解されています。
ということとなり、社会保険・税金の算定のための所得として計算されることになります。
なお、ストックオプションは付与されただけでは、所得とはならないようです。
ただし、ストックオプションについては、自社株をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものであり、権利の付与自体は社会保険料を徴収すべき報酬に該当しないとされています。
会社側の税制
この譲渡制限付株式は、会社側では損金として処理できるようになっています。
そのための条件が以下のように定められています。
税制措置の対象となる「特定譲渡制限付株式」とは?
①及び②の各要件を満たす株式(以下「譲渡制限付株式」といいます。) であって、次の③及び④の各要件を満たすものとされています。
① 一定期間の譲渡制限が設けられている株式であること
② 法人により無償取得(没収)される事由(無償取得事由)として勤務条件又は業績条件が達成されないこと等が定められている株式であること
③ 役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えに交付される株式等であること
④ 役務提供を受ける法人又はその関係法人の株式であること
なお、役員給与として特定譲渡制限付株式が交付された場合には、事前確定届出給与の要件に該当する特定譲渡制限付株式による給与の額については、原則として損金の額に算入されます
外資の会社が、ストックオプション制度を日本で使った時、当時の日本の税制では対応できなかったような時代もありました。
今回の譲渡制限付株式は、今のところ、日本の税制も適応できる仕組みのようですが、最新の税制度はチェックしておかないといけないと思います。
譲渡制限付株式を付与するための導入手順
この譲渡制限付株式を付与するための手順としては、
- 株主総会:取締役の譲渡制限付株式のための報酬総額
- 取締役会:取締役個人に対する金銭報酬債権の付与を決議
- 取締役会:株式の第三者割当て(新株の発行又は自己株式の処分)を決議
- 払込期日において、各取締役による上記2の金銭報酬債権の現物出資と引換えに、各取締役に株式を交付
といった流れになります。
株主総会で、通常の報酬枠とは別に「取締役の譲渡制限付株式のための報酬総額」を決議しておいた方がよいようです。
ストックオプションのように、株主総会で大枠を決定し、各付与手続きは取締役会で行うのと同じような感じです。
参考資料)特定譲渡制限付株式の導入の手引き
平成28年4月に経済産業省から、役員向けの新たな株式報酬として特定譲渡制限付株式の導入の手引きが公表されています。参考にされると良いと思います。
http://www.meti.go.jp/press/2017/09/20170929004/20170929004.html
使いやすい「株式報酬制度」はどれか?
役職員向けの株式報酬制度をまとめると、
- 持株会
- ストックオプション
- 株式交付信託制度
- 特定譲渡制限付株式
という制度がでてきました。
それぞれ長所短所があり、会社にあった制度を導入するのが一番だと思います。
成績を出した人にボーナスの代わりにストックオプションではなく実株を与えればいいのです。
by 西室 泰三