毎年6月は株主総会ラッシュシーズン。
企業の総会担当者のみなさま、お疲れ様でした。
- 2017年6月は株主総会ラッシュシーズン
- 企業の個人投資家対策
- 株主総会のビジュアル化
- 株主総会後の食事提供:懇親会
- 株主優待による個人株主獲得
- ブームは去った?
- マンネリ感のある株主優待
- 個人投資家が増えすぎた
- 「アーリーアダプター」が得をした
- 本来の投資環境に戻る
- 2020.08 追記)コロナ禍で株主総会が変わる
2017年6月は株主総会ラッシュシーズン
3月決算の企業が多い日本では、6月は株主総会の開催ラッシュシーズンです。事業年度の終了後3か月以内に株主総会を開くことと、会社法で決まっているからです。
株主総会を開催する当の会社以外にも、株主総会の会場、株主に送付する招集通知・事業報告書などを準備する協力会社や発送会社など、関連する業界にとって、大変な時期でもあります。
2017年のピークは、とある統計によると、
集中日である6月29日は全国で656社が株主総会を開催する
上場会社3600社のうち、約2割の会社が、同じ日に総会を開くことになります。
企業の個人投資家対策
15年ほど前に、その周辺業界にいたときは、個人株主を増やすことが業界全体のブームのようになっていて、
- 株主総会のビジュアル化
- 株主総会のお土産の充実化
- 株主総会後の食事提供
- 株主優待の充実化
といったことを実施する企業が、急速に増えていきました。
個人株主をもてなすことで、個人株主を大切にしている姿勢を示し、個人株主数を増やすということにつなげようとしていました。
株主総会のビジュアル化
今でこそ、株主総会に参加すると、議長の説明に合わせて、スライドなどが投影され、業績や議案などをわかりやすく伝える、というのが一般的になっています。
2000年代の最初の頃は、投影するスライドなどなく、ただ文章の読み上げだけで、普通の人にはわかりにくいものでした。さらに、一方的に説明をし、形だけの質疑を取り、会社提案の議案をそのまま可決させる、という形式だけの株主総会(いわゆる「シャンシャン総会」)が多かったです。
今でも、「形式だけ」という点ではあまり変わりませんが、「わかりやすくする」「株主の声を聞く」という点は、その姿勢を示す企業がずいぶんと増えてきました。「開かれた株主総会」として、きちんと説明し、質問にもきちんと答える、といったことが一般化してきたと言えます。
株主総会後の食事提供:懇親会
同じ時期に、ホテルなどで株主総会を開催し、開催後はそのまま懇親会を催して、立食形式などの食事などでもてなす、という企業が増え始めました。なお、株主の参加費は無料です。
人気ある企業ですと、数百名〜数千名ぐらいの株主が参加されるわけですが、結婚式のような事前申し込みでなく、当日どのぐらいの人が参加されるのかを、「去年が●●人ぐらい参加したから、今回は●●人ぐらいかも」というような感じぐらいしか予測が立てられず、それで準備をするということになります。
料理の数だけでなく、お土産の数などもあり、「足りない」という最悪の状況だけは避けようと、余分に用意したりと、企業側の負担が大きかったと思います。
株主優待による個人株主獲得
株主優待も、一時期大変活況な時期がありました。
株主優待なども、自社商品以外に、食事券・金券類・クオカードを提供する企業が、当時、急速に増えていました。
最近「ふるさと納税」で、豪華すぎる返礼品が問題となりましたが、あれと似たような感じで、株主優待も注目されていました。
株主優待が欲しいから、その企業の株主になったという人も多く現れました。
果たして、その目的でいいのかどうかは別にして、株主数を増加させる一つの手段としては、かなり有効だったようです。
ブームは去った?
これらの施策は、機関投資家はほとんど興味がないので、個人投資家対策の一環でしかありません。
あの時期は、「個人投資家対策ブーム」だったと言えます。
今は、そのようなブームは去ったかな、という印象を持ちます。
まず、総会後の食事提供を廃止する企業が増えてきました。従来、午前中に株主総会を開催していたのを、午後に開催することで、食事が不要な状況にしていきました。
そして、お土産も縮小や廃止をしてきています。
株主平等の原則から見ても、総会に出れた人と出れない人(総会に出ることを拒われているわけではありませんが。)での差というのは、このような対応がいいかと思います。
マンネリ感のある株主優待
株主優待品は、以前のような「こんなにもらえるのか!」と驚くような優待は少なくなり、なんとなく縮小傾向のような雰囲気を感じます。
株主優待向けの商品を毎年作り提供する、という毎年変化を行なっている企業もあれば、毎年同じものを送る、という企業もいます。
昨今の株主優待を見ていると、企業の対応はさまざまです。
ちなみに、個人投資家の視点で言えば、「株主になって、自社商品の株主優待を無料でもらう」よりも、お店で、普通に商品を買った方が、費用が安く、その上安全です。
たとえば、3,000円相当の株主優待品をもらうのに、10万円ぐらいの株式を購入するのであれば、株式は買わずに3,000円分の商品を購入した方が、個人投資家の費用負担は少なく、企業にとっても収益になります。
個人投資家が増えすぎた
企業側の熱気が下がってきた要因の一つとして「個人投資家が増えすぎた」という点があるかもしれません。
東京証券取引所の統計によれば、最新の個人株主数は、約4,950万人(延べ人数)で、過去最高となったようです。(これは延べ人数なので、Aさんが4社の株主であれば、4人とカウントされます。)
個人株主を、これ以上伸ばせる余地があるのか。頭打ちの時期が、そろそろ来るのかもしれません。
また、企業側が以前ほど「個人株主」を求めなくなってきた、という状況かもしれません。
企業から見れば、個人株主を増やせるところまで増やす、ということは、あまりメリットはなく、市場指定替えなどの際の必要最低限の株主人数を満たせば、増やす意欲が減ります。
むしろ、書類を送ったり、証券代行に名簿管理料を払ったり、という点で、株主数が多すぎると、その費用が膨らんでしまう、ということもあります。
「アーリーアダプター」が得をした
15年ほど前の時期に、株式投資を行なっていた人は、マーケティング的に言えば「アーリーアダプター」と呼ばれるグループです。
上述のような、総会後の食事や充実した株主優待など、企業の個人株主対応策がいろいろと出てきて、一番楽しめた時期です。
残念ながら、ここ2−3年ぐらいに、株式投資を始めた人は、そういうのと比べると、少し残念かもしれません。
本来の投資環境に戻る
「優待がもらえるから、この企業に投資する」
「総会後の食事が楽しみだから、株主になった」
ある意味で、株主総会のアフターサービス、株主優待のプレゼント作戦、といったものが減り、応援したい会社や投資妙味のある会社を見つけて投資する、ということになり、株式投資が本来の位置付けに戻って来たのかもしれません。
2020.08 追記)コロナ禍で株主総会が変わる
2020年のコロナ禍により、その年の株主総会は「なるべく事前行使をして、総会会場には来ないでください」という対応になり、改めて株主総会とはどうあるべきかを考えさせられるきっかけとなりました。
株主総会というのは、経営者にとって一種の選挙です
by 渡邉 美樹