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はじめての「受取手形」ベンチャー泣かせの支払い方法

初体験の「手形」。取り扱いには要注意です。

はじめての「受取手形」ベンチャー泣かせの支払い方法

 

 

創業して2年目ぐらいに、商品代金の支払いで、購入いただいたお客様(企業)から「手形」で受け取ったことがあります。金額的には数百万円ぐらいのものです。

それまで、多くのお客様からは、銀行振込で支払っていただいて、「手形」での支払は初めてでした。

 

 

手形とは

「手形」というのは、

手形の振出人(発行者)が、受取人またはその指図人に対して、一定の期日に一定の金額を支払うことを約束する形式の有価証券のことである。

手形には、いくつか種類があり、「約束手形」というものです。

そのお客様は、日本の由緒ある、老舗消費財メーカーで、財務的に資金に窮しているというわけではなく、商慣習的に支払いは手形で行う、とされていました。

銀行振込とは違うけど、手形でも大丈夫かと思い、何も考えずに手形で支払いいただきました。

これが苦労の始まりでした。

 

 

貸借対照表に初めて「受取手形」を記載

そして「手形」が郵便で届きました。

内容を見ると、請求して1ヶ月後に手形が届き、支払い期日は4ヶ月後という代物の手形でした。つまり、約半年先に現金をお支払いいただくという内容のものです。

このとき、当社の貸借対照表に「受取手形」という勘定科目で、仕分けが入りました。

もともと、手形の勘定科目を使うとは思っていなかったので、 手形を扱えるようになるとは、なかなか感慨深いものでした。

しかし、いろいろと面倒なことがわかってきました。

  

 

扱いが面倒な手形

「手形」という名称自体は、本や教科書などで知っていたものの、実際に扱うのは初めてです。

そして、扱いがややこしく、教科書通りに対応できないということを実感しました。

具体的には、

  • 支払い期日まで現金にならない(絵に描いた餅状態)
  • 早期現金化しようと思っても、金融機関は手形を簡単には割り引いてもらえない
  • 割り引くことができても、手数料や利息で、けっこうとられてしまう

 

 

数ヶ月分のキャッシュが寝てしまう

請求して1ヶ月後に手形が届き、支払い期日は4ヶ月後という代物の手形。

つまり、お客様に請求してから、約半年先に現金となります。

そのときの手形に記載の金額は数百万円で、その当時の会社の2-3ヶ月分ぐらいの事業経費に相当しました。

創業したてのベンチャーだったので、資金余裕がそれほどあるわけではなく、現金の受取が半年先になるというのは、かなり痛手です。

 

 

「手形割引」で早期現金化

手形を支払い期日前に現金化できる手段として、「手形割引」という方法があります。

手形割引とは、

手形割引(てがたわりびき)とは、満期前の手形を第三者へ裏書譲渡し、満期日までの利息に相当する額や手数料を差し引いた金額で換金することである。

早く現金が欲しいという事情もあり、この「手形割引」を試すことにしました。

 

 

「手形割引」を引き受けてくれない、取引銀行

 教科書などには、「金融機関などで、手形を割り引いてもらうことができ、それにより、本来の支払期日より前に、現金を得ることができる」というようなことが紹介されています。

当社のメインバンク(と呼べるかどうか微妙な取引規模ですが)、日常の決済や借入を行なっていた、都市銀行の一つに手形の件を相談してみると、「それは難しい」ということでした。

 

 

「手形割引」は融資となり、審査が必要

その都市銀行の、当社の担当者が言う内容としては、「手形割引」というのは、手形を担保にした融資と一緒で、それを実行するには、通常の融資と同様に、所定の審査を経なければならない。また融資限度額を超えていると、実行は難しい。

手形の発行先が、いくら優良企業でも、手形割引の申込者の信用審査が問われるわけです。

その当時、その都市銀行からは、当時の限度額目一杯の借入を行なっていたので、限度額をさらに増やすというのは、当時の当社の業績からでは、なかなか難しいということでした。

 

 

フットワークの軽い、地場の金融機関が「手形割引」ではオススメ

その後、会社に近い、信用金庫に用があり、ついでに手形割引のことを相談してみると、意外にも「あ、いいですよ。」という返事。

手形を裏書きして、1週間内ぐらいで、現金が振り込まれました。

ちなみに、手形の裏書きとは、所有者を変更する手続きです。昔の株券のような感じです。

手形の裏面に「表記金額を下記被裏書人またはその指図人へお支払下さい」という文章(裏書文句)と、譲渡する相手(被裏書人)の名前を書いて、譲渡する人(裏書人)が署名・捺印して、その手形を被裏書人に渡します。

 

 

手形を割り引くと、手数料と利息が取られる

手形を割り引いて、現金が振り込まれたのですが、手形に記載された満額ではありません。

その手形を割り引いた金融機関が、手数料と支払期日までの利息を、その金額から差し引いてしまうからです。

 

 

発行者に有利な手形制度

本来、手形ではなく、銀行振込等で受け取っていれば、受取者は、手形の支払い期日までの金利利息を得る機会を持っています。(現在、利率が低く、その額は微々たるものですが。。。)

しかし、手形で支払われると、受取者は、そういう機会を失うだけでなく、割引を行うと、支払い期日までの借入利息まで負担をしなくてはなりません。

そのような金利負担を、手形の発行者ではなく、受取者が負担することに「?」と疑問を持ちました。

が、そういう制度だから、逆らうわけにはいきません。

 

 

「下請代金支払遅延等防止法」が2016年に改正

ところで、このような手形の受取者、つまり下請け事業者に不利な商取引に、改善の兆しが生まれています。

具体的には、

  • 割引困難な手形の期間を繊維業が90日、それ以外の業種は120日以内と定めているが、これを60日に短縮する
  • 原則として手形ではなく現金支払とする
  • 手形での支払いの場合でも、割引負担料を発注側である親事業者が負担する

当時、手形取引で感じていた不満点を解決するかのような内容の改正です。 

 

この法改正は、経済産業省の政策パッケージ「未来志向型の取引慣行に向けて(通称・世耕プラン)」の一環で行われるのだそうです。

会社経営において、「お金」は、とても重要な要素でもありますので、手形制度の改変で、円滑な商慣行になることは、経済にとっても、よいことだと思います。

 

 

手形受取時のチェックポイント

最後に、手形で受け取るときの注意点をまとめます。

  • 発行先の企業の財務状況は要チェック
    手形の支払期日までに倒産すると、いわゆる「不渡手形」となり、手形の金額は支払われない。また、割引いた手形も、弁済しなければなりません。
  • 地場の金融機関との取引実績を作っておく
    大手都市銀行よりも、信用金庫や地銀の方が、手形のための融資が通りやすかったりします。
  • 手形の管理は厳重に
    手形も有価証券に相当しますので、受け取ったら、金庫などに入れて、保管をしましょう。

 

 



発注時の姿勢に甘さがみられる会社には、細心の注意を払うようにしました。手形は受け取らず、毎月現金で払ってもらう。
by 松井 利夫

 

 


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