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ENECHANGEのSPCオフバランスはなぜ失敗した?

ENECHANGEのSPCオフバランスを見てみる。

 

ENECHANGEのSPCオフバランスはなぜ失敗した?

 

 

2024年3月、ENECHANGEでこんな発表がありました。

「EV 充電インフラ1号合同会社」を当社の連結範囲に含めるための対応を行うことといたしました。

これにより、

  • 業績予想の修正(未定)に関するお知らせ 
  • 子会社の異動に関するお知らせ 

といった対応を行うこととなりました。

なお、これらが発表されたのが、定時株主総会の開催直前での出来事だったので、ENECHANGE社内では、かなり慌ただしい対応があったことでしょう。

 

「EV 充電インフラ1号合同会社」とは

「EV 充電インフラ1号合同会社」の概要について公表されている情報は、こんな感じです。

  • 設立:2023年2月
  • 出資金:10万円
  • 出資者:一般社団法人 EV 充電インフラ 100%

この「EV 充電インフラ1号合同会社」の出資者である「一般社団法人 EV 充電インフラ」は、設立住所がEV 充電インフラ1号合同会社と同じ「東京都千代田区丸の内3丁目1番1号東京共同会計事務所内」で、おそらくENECHANGE関係者で設立したものだと思います。「一般社団法人 EV 充電インフラ」については、出ている情報がかなり少ないです。

「EV 充電インフラ1号合同会社」は、いわゆるSPC、「特別目的会社」としての箱でしょう。

 

SPCを使ったEV充電設備の取得・保有

この「EV 充電インフラ1号合同会社」というのは、「EV充電設備の取得・保有」をするためのSPCとして使い、当初の狙いとしては、ENECHANGEが開設した電気自動車向け充電スタンドを、このSPCが取得して、売主側であるENECHANGE側の収益として計上をされたかったようです。

以前、不動産開発会社が自社開発物件を、自社関連のREITに取得してもらい、売却して、自社のBSからオフバランスして、PLに売上計上するスキームが流行っていた時期があります。今回のENECHANGEのも、このスキームに似ているように思います。

不動産会社ではできて、今回のENECHANGEではできなかった。その原因について、考えてみたいと思います。

 

 

オフバランスするための要件

上のような、自社開発物件を自社関連のREIT等に売り渡す際に、収益に計上するための条件について、日本公認会計士協会で『特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針』というものが決められています。

 

特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針

 

「オフバランス」、つまり収益に計上するためには条件が厳しく、SPCと譲渡会社間の関係性が問われ、上フローにあるような、最後までの部分でようやく可能となります。条件を満たさないと、関係者間の取引となってしまい、単に右から左に移動するだけの、あまり意味のない取引になってしまいます。

大きな条件としては、以下のような点です。

 

条件1「不動産における継続的関与があるか?」

不動産流動化実務指針第7項にある内容で、不動産の流動化における不動産の譲渡人が、譲渡後に当該譲渡不動産に継続的に関与している場合、譲渡人はその不動産をオフバランス化することができない。

譲渡後に譲渡不動産に継続的に関与しているとみなされた場合、これは売主が事実上、資産を引き続き管理・操作していることを意味し、その結果、資産は売主の財務諸表上で依然として表示されるべきである。

このような状況では、不動産は売主のバランスシートから切り離すことができず、売主は引き続きその不動産に関連する責任やリスクを負うことになる。

 

条件2「譲渡不動産は特殊性を有するか?」

不動産流動化実務指針第10項にある内容で、流動化された不動産が、譲渡人の用途等に合わせて特別な仕様により建設された建物、用途制限や環境問題等のある土地や建物、地域経済や仕様等により収益性に著しい問題のある土地や建物のように、市場性に乏しくそのまま他に転用することが困難である等の特殊性を有する不動産かつ、何らかの継続的関与がある場合、原則として、譲渡した不動産に係るリスクと経済価値のほとんど全てが譲渡人から他の者に移転しているとは認められないため、売却処理を行うことができないとされている。

このような特殊性を有する不動産は、その特性や状況に応じて他の用途に転用することが難しく、譲渡人がいくら努力しても市場での売却が難しいと判断される場合がある。

そして、譲渡人が不動産に継続的な関与を持つ場合、不動産の売却は事実上不可能と見なされることがあります。このような状況では、譲渡人が自身の財務諸表から不動産を切り離すことが難しく、そのままバランスシート上に残ることになる。

今回の対象となるのは、ENECHANGEが設置したEV充電設備なので、ENECHANGE特有の仕様かなにかがあったのかもしれません。

 

条件3「リスク負担割合はおおむね5%の範囲内か?」

今回のSPCである、EV 充電インフラ1号合同会社の出資金は10万円。

さすがに10万円で、対象物件を購入することはできないでしょうから、必要な資金を調達する必要があります。

リスク負担割合はおおむね5%の範囲

その際、上のような感じで、そのSPCが、関係者の資本の5%未満で、残りが他人資本の関係になっていれば、オフバランスで売却処理を行うことができます。

 

今回のENECHANGEでは、どの部分がNGだったのか。
これらの要件は、会計や監査法人に事前確認をすれば、わかっていた内容だとは思いますが、聴かなかったのでしょうか。

 

ちなみに、「EV 充電インフラ2号合同会社」もあって、2024年1月に設立しています。おそらく、「EV 充電インフラ1号合同会社」でうまくいきそうだったので、2号用に作ったのでしょう。

しかし、今回の件で、難しくなりそうです。

 

 

 

 


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