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“成長圧力”が招く落とし穴──AIスタートアップ・オルツ事件から学ぶべき経営の教訓

AIベンチャー・オルツで発覚した粉飾決算。急成長の裏で何が起きていたのか。経営者の視点から誠実な経営のあり方を考えます。

“成長圧力”が招く落とし穴──AIスタートアップ・オルツ事件から学ぶべき経営の教訓

 

急成長ベンチャーに何が起きたのか?

生成AIやパーソナルAI(P.A.I.)の領域で注目を集めたAIスタートアップ「オルツ」が、2024年10月に華々しくIPOを果たしました。議事録自動作成ツール「AI GIJIROKU」などのプロダクトで話題を呼び、AIベンチャーの“希望の星”として業界内外から熱い視線が注がれていました。

しかしその数カ月後、信じがたい事実が明るみに出ます。2025年4月、証券取引等監視委員会が不正会計の疑いで調査を開始。そして7月に公表された第三者委員会の報告書により、同社は売上の大半を水増しし、少なくとも約119億円もの過大計上を行っていたことが明らかになりました。

AI業界の成長期待に沸く中で起きたこの事件は、私たち経営者に「誠実さとは何か?」という根本的な問いを突きつけています。

 

売上の91%が架空──第三者委員会の調査報告より

第三者委員会によると、オルツ社では「スーパーパートナー(SP)」と呼ばれる販売代理店を通じた循環取引によって、実際には利用実績のないアカウントにもかかわらず売上を計上していました。広告代理店や開発会社へ資金を流し、その一部をSP経由で自社に戻すことで、帳簿上の売上を形成するという手口です。

このような“架空売上”の規模は膨大で、2024年12月期に至っては、売上の91.3%が過大計上だったとされています。広告宣伝費のうち実に約76%が、このスキームに関与していた可能性があるとの指摘もあります。

 

オルツ社を担当していた監査法人シドーとは?

通常、監査法人は、売上の証憑をかなり厳しくチェックするはずなのですが、それをスルーしてしまうとは、どういう裏技があったのか、気になる点です。

社内ではGoogleスプレッドシートを使って流通経路を管理し、監査法人の目を欺くよう時期や金額の調整も行っていたという報道もありました。それだけで、チェックの目をごまかせるのでしょうか?

オルツ社を担当していた監査法人は、監査法人シドーだったそうです。

正直、はじめて聞いた監査法人の名前です。公表情報によると、常勤9名・非常勤14名程度。かなり小規模です。

今回のは裏技というよりも、単なる能力不足かな、とも思います。今回のオルツ社での売上過大計上の規模、循環取引スキームや広告関連費の異常性を見抜けなかった点、今後、監査能力に対して厳しくチェックされそうです。

なお、監査法人シド―の、上場企業での被監査会社としては、オルツ以外に、トレードワークス、テクノメディカ、CEホールディングスがあるそうです。

 

経営者の視点で考える──なぜ不正は止められなかったのか?

「なぜ、誰も止められなかったのか?」

これは他人事ではありません。
オルツ社で起きたことは、経営者なら誰にでも起こりうる「構造的な弱点」に起因しています。

  • 上場という目標に対する過剰な執着
  • 売上・KPI・成長率といった数値が“目的化”してしまう危険性
  • 経営トップの強い影響力と、それをチェックできない組織構造
  • 社外取締役・監査役の機能不全
  • 内部通報制度があっても、実効性が伴わない環境

特にスタートアップやベンチャーでは、「資金調達」と「評価指標」がすべてになりがちな環境があります。意図的であれ、無自覚であれ、「数値を作る」ことに組織の目標がいってしまうと、倫理より効率が優先される空気が生まれてしまいます

とくに、社長の声が大きい場合、誰も止める人がいないという状態が一番危険です。

 

他山の石として──わたしたちは今、何を点検すべきか?

今回の事件を受けて、こんなことを考えました。

  • 売上の“実在性”は本当に確認できているか
  • 会計や財務の担当者が「モノが言える」環境になっているか
  • KPIは「組織を動かす道具」ではなく「考えるための道具」として機能しているか
  • ロジックが強い人間の意見ばかりが通っていないか
  • 「会社のため」と言って、本質から目を逸らしていないか

企業文化は、制度以上に重要です。
不正を防ぐのは、ルールではなく「空気」だと、私は思っています。

基本的に、2つの会社があれば、売上や費用を自由に作ることができます。それを実行するかどうかは、会社もしくは経営者のモラルです。

 

最後に──信頼を築く経営とは

粉飾会計の報道を見て、多くの人が「またか」と思ったかもしれません。しかし、これはAIやスタートアップの問題ではなく、人間と組織の問題です。

ガバナンスとは、誰かを縛るものではなく、「不正を起こさせない空気」をつくるための仕組みだと思います。そして、それを支えるのは、経営陣の誠実さと日々の自省に他なりません。

 

 


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