東京メトロのIPO。
2024年10月23日、ついに東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)が上場しました。
このIPO(新規株式公開)は、過去に計画がありながらも延期され、約20年越しに実現したものです。10,000株以上の株主に対して全路線無料で利用できるという株主優待制度。この制度は多くの関心を呼んでおり、上場に際して投資家や利用者の間で話題になっています。
ところで、東京メトロのIPOにあたり、有価証券届出書などを見ていて、気になった点を書いてみました。
東京メトロにはお金が入らないIPO
今回の東京メトロの有価証券届出書を見ると、株式の新規発行はなく、既存株主である東京都と財務省による売出しのみ。つまり、東京メトロには、資金が一切入ってきません。逆に上場審査等のIPO関連費用が発生し、東京メトロの費用負担だけかかります。
2024年3月期の東京メトロのキャッシュフローを見ても、現金及び現金同等物の期末残高は906億円で、それ以外に安定した営業キャッシュフローがあります。東京メトロとしては現時点で追加の資金調達が必ずしも必要ではなかったといえるでしょう。しかし、費用負担が発生するにもかかわらず資金が入らない点で、「少し気の毒なIPO」のような気がしています。
東京メトロは今後事業成長できる?
そして、1番気になるのが、東京メトロの今後の成長。
株式の上場後は、株主の期待に応えるため、企業の成長が求められます。
成長とは、売上や利益の拡大を指し、たとえば飲食業や小売業であれば、IPO資金を活用して新規店舗の展開を図ることで売上を伸ばすことが可能です。
しかし、今回の東京メトロのIPOでは新規の資金調達が行われておらず、現状のリソースで成長を図るしかありません。
東京メトロの主要事業である「鉄道事業」では、現在の9路線・195.0の営業キロ・180駅のリソースがあります。
新たに、延伸プロジェクト(有楽町線の豊洲~住吉間、南北線の品川~白金高輪間)がありますが、その完了は2030年台半ばですので、だいぶ先の話です。
今の既存の鉄道事業のリソースでの成長を行うとしたら、
- 運賃の値上げ
確実に収益増が見込まれる手段は、運賃の値上げです。上場企業として株主に対する収益性の向上が求められるため、一定のタイミングで運賃引き上げが検討される可能性が高いのでは? - 24時間運行と深夜料金の導入
24時間運行を実現することで深夜利用者からの収益を上げる可能性もあります。深夜料金を設定し、新たなサービス形態を導入することで、乗客層を拡大できるでしょう。 - インバウンド観光客の増加
訪日外国人観光客向けの特別パスや多言語対応サービスの強化も視野に入れています。観光需要の増加を背景に、外国人観光客の利用を促進する施策が求められるでしょう
東京メトロが日本全体の地下鉄を運営する?
現在の商圏である東京都区での成長は限界があります。
よりダイナミックな展開として、東京メトロが全国の地下鉄運営に参入する可能性も考えられます。
多くの自治体が赤字運営している地下鉄を抱えており、運営ノウハウを持つ東京メトロがそれらの運営を請け負うことで、効率改善や収益向上が期待されます。
たとえば、ホテル業界で赤字旅館の再生を行う星野リゾートのように、東京メトロが赤字の地下鉄運営を引き受けることでノウハウを活かした再建が可能かもしれません。
東京メトロの海外進出
さらに、日本国内に留まらず、海外市場での成長機会も考えられます。
現に、「ベトナム東京メトロ」(Vietnam Tokyo Metro)というのがあって、主にハノイの都市鉄道システムに関する運営ノウハウの提供や、運行管理や人材育成に関するコンサルティング業務を担っているようです。コンサルティングから、そのまま運用を受託するということもありかもしれません。
東京メトロの上場により、企業としての成長が求められる一方で、IPOでの資金調達はありませんでした。今後の動向に注目しつつ、東京メトロの成長戦略を見守りたいと思います。