企業の決算書に、いまだに残る「電話加入権」という資産について。
- 「電話加入権」とは
- 電話施設費用を加入者に分担させる目的だった「電話加入権」
- 「電話加入権」の値段推移
- 転売が可能だった「電話加入権」
- 固定電話が減少、全盛期の3分の1へ
- 「電話加入権」の資産価値は?
- 企業の「電話加入権」の会計処理
今は、ケータイやスマホの普及で、固定電話を持たないということも珍しくなくなりました。しかし、一昔前は、固定電話が重要な情報通信手段という時代がありました。
その固定電話を設置する際に必要だったのが、「電話加入権」です。
「電話加入権」とは
「電話加入権」について、簡単に紹介すると、以下のようなものです。
NTTの固定電話網に加入することができる権利
NTTの固定電話網に加入するとき、一時金として「施設設置負担金」を支払わなければならない。一度だけ支払えば、転居した場合でも新たな負担をせずに電話を引くことができるため「電話加入権」と呼ばれている。
私も社会人になり、 一人暮らしを始めて、家電量販店で、当時72,000円の加入権と電話機を購入して、電話を引いたことを思い出します。電話を持つと、なんだか一人前の大人になったような感じでした。
当時は、通話料金の安いPHSと通話料金の高いケータイの時代です。インターネット通信を行うにも、ダイヤルアップの全盛期で、ヤフーBBがモデムバラマキが始まろうとしていた時代です。
電話施設費用を加入者に分担させる目的だった「電話加入権」
1947年に制度化された電話加入権は、もともと電話回線や電信柱などのインフラを整備し、固定電話を普及させるための資金調達の手段だった。戦後復興期には電電公社(当時)の自己資金だけでは加入希望者の急増に追いつかなかったため、新規加入者に負担を求めたのだった。
戦後は、電話加入者はまだ少なく、これからインフラとなろうとしていた時期です。
インフラ普及のために、NTTには設備投資が必要な時期でした。
昔のNTTが局舎や回線、電柱などを日本全国に用意するのに膨大な費用がかかるため、その費用を利用者にも負担させることが目的で、この「電話加入権」が始まりました。
昔は、民間会社のNTTではなく、電電公社という役所みたいな感じだったので、民意の意向というよりも、国の財政事情や政策事情などで、この制度が決まったのでしょう。
「電話加入権」の値段推移
この「電話加入権」である施設設置負担金は、以下のような値段でした。
- 1952年:34,000円(今の価格で170,989円)
- 1960年:10,000円(今の価格で 40,868円)
- 1968年:30,000円(今の価格で 78,792円)
- 1971年:50,000円(今の価格で110,871円)
- 1976年:80,000円(今の価格で106,748円)
- 1985年:72,000円
- 2005年:36,000円
固定電話を設置するには、 初期費用として、それなりの費用がかかりものだったことがわかります。
個人宅ではせいぜい1-2台ですが、企業となると電話加入数も多くなるので、初期費用も高額となります。
このほかにも、1950-1980年ぐらいまでは、「電信電話債券」というものが存在していたようです。
転売が可能だった「電話加入権」
また、この「電話加入権」は転売が可能でした。
「電話加入権」があれば、電話回線を新たに引く際に、施設設置負担金を支払う必要がなくなります。そういう権利売買を行える、一種の流通市場がありました。
電話を使わなくなったら転売することも可能なため、解約した人から電話加入権を買い取って新規に電話を引きたい人に売却するビジネスも存在する。
現在、携帯電話の普及で固定電話を持たない人の割合が増加し、需給関係の悪化から販売価格は1万円台に低迷している。
そして、「電話加入権」が不用のプランも登場しました。
NTTは、毎月の基本料金に 640円だけ上乗せすれば加入時の72,000円が不要となる「ライトプラン」を2002年に導入した。
固定電話が減少、全盛期の3分の1へ
上の引用文にもあるように、現在は、固定電話以外の通話手段が多様となり、固定電話の施設数が減少しています。さらに、企業でも、IP電話や、PHSをつかった内線など、固定電話以外の方法が導入されています。
上の図では、2003年で6,007万件だった固定電話施設数は、2016年現在では2,298万件となっています。約3分の1です。
また、固定電話のインフラ網は、すでにできて上がっているので、「施設設置負担金」という役目も薄れてきているようです。
「電話加入権」の資産価値は?
最近、昔からある企業の決算書の貸借対照表に「電話加入権」をのせているところを見かけました。
昔は、転売もできて、それなりの資産価値もあった「電話加入権」。
しかし、「需給関係の悪化から販売価格は1万円台に低迷」、施設設置負担金額が72,000円から36,000円に減額されたり、施設設置負担金が不要な電話加入も可能となっています。今も資産価値があるのでしょうか?
資産価値がないならば、減損処理をして、貸借対照表から外してもいいのではないかと思い、調べてみると、そう簡単にはいかないようです。
企業の「電話加入権」の会計処理
結論からまとめると、
- 電話加入権は「非減価償却資産」:減価償却のできない無形固定資産とされている。
- 法人税 第9章 その他の損金 第1節 資産の評価損、法第33条第2項《資産の評価換えによる評価損の損金算入》の規定により、「電話加入権(特殊な番号に係る電話加入権を除く。) 電話局の異なるものごと」は資産の評価損の計上ができる。
- しかし、税金の申告上は、この評価減は認められていない。
「電話加入権」を所有しているものの、「休止」状態で、使われていない回線があれば、それを評価損として会計処理を行うことができるようです。
なお、NTTでは、「電話加入権」に紐付いている「電話番号」の管理をしておらず、どの電話番号がどの電話加入権なのかを、自分たちで特定しなくてはいけません。
事務所の移転などを繰り返していたり、社内に電話番号が多数あると、電話加入権と電話番号の特定作業だけで、かなり手間がかかるということです。
Webなどをしらべると、「電話加入権」を売却してしまうという方法もあるようです。
実態として、制度がほぼ形骸化されている「電話加入権」ですが、企業の決算書からは、なかなか消えなさそうです。
こちらのブログ記事に詳しく紹介されていますので、ご興味ある方はご参考ください。
電話に頼っている人は、相手の都合を考えない、仕事のデキナイ人といえる。
by 成毛 眞