新任取締役の経営手帳

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「コインチェック」「はれのひ」騒動:創業ベンチャーが気をつけるべき教訓

企業の失敗事例から学ぶことは多いです。

「コインチェック」「はれのひ」騒動、ベンチャーが気をつけるべき教訓
失敗こそが経営者の成長の源泉

 

 

2018年1月は、「はれのひ」「コインチェック」など、社会的に大きなインパクトを与えた企業不祥事が続いた月でした。

どのような不祥事だったかご存知の方も多いと思いますが、簡単にまとめると、以下のような内容です。

 

「はれのひ」事件の概要

振り袖の販売・レンタル業者「はれのひ」が成人の日を前に突然営業を取りやめ、多くの新成人女性が晴れ着を着られなかった。

 

「コインチェック」事件の概要

仮想通貨取引所大手コインチェックにて、顧客から預かる約580億円分の仮想通貨「NEM」が不正アクセスによって流出した。

 

 

資金繰りが厳しかった「はれのひ」

「はれのひ」に関して、ぱっと見では、運転資金が枯渇してしまったのが原因ではないか思います。2017年3月に話題になった格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産事件と、本質は似ています。

振り袖の代金・着付け代などを前払金として、成人の日より前に顧客からもらっていたお金で、会社運営をしていたのでしょうが、その自転車操業が破綻してしまった。従業員等への給与未払いも、ずいぶん溜っていたそうです。

原因の詳細は分かりませんが、店舗を構える業態で、日本各地にお店を構えていたので、その出店コストがけっこう負担になっていたのではないでしょうか。

お客さんからの前払金は、そういうお店の敷金や開店費用に消えていたのかもしれません。

 

 

振り袖業界は収益性が良くない? 

「振り袖」業界について、あまり知りませんが、同業で上場している会社「京都きもの友禅」の財務情報をみると、事業環境が年々厳しくなっているように感じます。

 

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京都きもの友禅の財務ハイライト

 

お店を持つということは、初期コスト以外にも、家賃やスタッフなどの人件費などのコストが、売上の増減関係なく、毎月発生していきます。

「はれのひ」では、それらのコストが、振り袖ビジネスの収益性とバランスが取れていたのかでしょうか。

詳しい事業構造はわかりませんが、振り袖を着る場面が「成人の日」ぐらいしかなく、売上機会がかなり季節商売で短い点が、かなりリスク高いようにも見えます。

また、お客さんを獲得すための広告などといった、売上獲得コストも重すぎたように思います。さらに、顧客化ができても、何度も頻繁に購入するような商材ではないので、売上高の積み上げも難しいでしょう。(今年のお客さんが来年のお客さんにはならないビジネス構造)

よほどの資金的な余裕やよい仕組みがない限り、ベンチャーが挑んではいけないビジネスのようにも思います。(逆に、ネット専業にし、着付け等は提携美容院を増やすなどしたりすれば、成立できそうな気もします。)

 

 

成長が早すぎた「コインチェック」

「はれのひ」の振り袖業界と違い、仮想通貨業界は急伸している業界で、仮想通貨取引所大手コインチェックは、その業界の中でとくに急成長中していた会社です。

コインチェックのビットコインの現物取引高は2017年に約1200万ビットコイン(円換算すると約8兆2000億円)と全体の4割を占めた。 取引高の伸びも著しく、2016年の約10倍に膨らんだ

今回の約580億円分の仮想通貨の流出は、外部からの不正アクセスということで、セキュリティ態勢が万全ではなかったのが原因とされています(今のところ)。

ハッカー等からの攻撃は手法が日々変わるので、対策するのは、それなりの技術や費用が要するものとなります。

銀行や証券会社などの組織の場合は、コンプライアンスなどの管理体制が決まっていて、それに準拠した組織体制でないと営業できないなどのルールがあります。歴史ある業界なので、過去に起きた様々な事件を教訓に、必要とされる態勢というのが付け加えられてきました。

しかし、歴史的にまだ新しい仮想通貨業界では、そのような法整備が追いついていなかったのでしょう。運営会社に限らず、以前、個人の人が、仮想通貨で収益を上げた場合は、税金どうするか、などの議論もありました。

 

 

金融庁での仮想通貨交換事業者の審査内容

 金融庁が、仮想通貨交換事業者の登録の際、事前審査として、以下の内容をチェックしているそうです。

  • 利用者保護措置
    取り扱う仮想通貨の特性について利用者に説明するための態勢が整備されているか

  • 利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理
    自己の固有財産である金銭・仮想通貨と、利用者が預託した金銭・仮想通貨が明確に区分されているか

  • システムリスク管理
    システムリスク管理態勢については、システム障害等の把握・分析、リスク 管理の実施結果や技術進展等に応じて、不断に見直しを実施しているか

金融庁・仮想通貨交換業者の新規登録の審査内容等

 

A4で一枚の紙にまとまっていて、「これだけ?」という感じもしましたが、このほかに「事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 16. 仮想通貨交換業者関係」というものが定められています。こちらは、かなり細かく要項が決められています。

金融庁・事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 16. 仮想通貨交換業者関係

 

仮想通貨取引所大手コインチェックでは、登録事業者としての申請を金融庁に行なっていた最中だったとかで、このあたりの態勢ができていたかどうかはわかりません。

 

 

ベンチャーにはハードルの高い規制対応

ベンチャー的な会社ですと、もっと多くのお客さんにサービスできるように、サーバーやシステム増強などには意識がいくけど、「お客さんがすでに使っているからいいのではないか」「現状、支障なく動いているからいいのではないか」などのように、こういう役所の決まり事には、軽視というか、後手後手の対応になりやすいと思います。

 

 

世の中に早くですぎると失敗しやすい

「社長が考えているよりも世間の動きは遅いので、早すぎるビジネス展開だと、世間が付いてこれずに失敗することが多いよ」と、親しくしていたVCが以前言っていたのを思い出します。

 

併せて、こんな本のことも思い出してきました。 

インターネット黎明期、当時では、インターネットに接続するには、普通の電話のダイヤルアップ方式で一般的で、当然電話代がかかっていたという状況です。この本の作者が社長をつとめる会社で、「ビジネス広告を表示させることで、無料でインターネットに接続できる」というサービスを開始して、爆発的に企業が成長していきました。しかし、その2年後、急に倒産してしまいした。その原因は。。。。

 

 

 

 

失敗事例からの教訓

今回の例を見ていると、

  • 一つは「収益性の低いビジネスモデル」
  • もう一つは「社内での法規制対応の遅れ」

という点が原因と思われます。

とくに、法規制対応という点で、行政での規制動きに左右される業界というのは、ベンチャーにとってはリスクの高い要素だと思います。

今まではOKだったけど、これからはダメになるということもありえます。いきなり、ダメとなった場合、収益が一気にゼロということにもなります。

仮想通貨の税務の取扱いもそうですが、新しいものに対して、行政での法整備が遅れて対応するということはよくあります。

 

そういう業界では、先行者メリットで、その業界の権威になってしまえば、法整備の際のオピニオン・リーダー的な立場になれる可能性もあります。IT業界などでよく見かけます。

監督官庁での動きを把握しつつ、自分たちにとって、不利になりそうな法などには、なるべく早めに対処していくというのが理想です。

 

それにしても、これだけ世の中を騒がしたコインチェック社は、事業再開できるのでしょうか?おそらく、まずは社名変更でしょうか。

 



失敗から学んでいくしかない。
by 柳井 正

 

 


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