新任取締役の経営手帳

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ベンチャー創業者は「小規模企業共済」に加入すべき?

経営者への退職金制度「小規模企業共済」に加入すべきかどうか。

 

コツコツ貯める
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自分で会社を設立すると、会社員時代とは違った、いろいろな状況に遭遇します。

今回は、その一つ「小規模企業共済」というものを取り上げたいと思います。

 

 

小規模企業共済とは?

「小規模企業共済」とは、簡単に言うと「経営者への退職金制度」のようなものです。

下のように端的に紹介されています。

小規模企業共済は、「経営者にも退職金を!」 というコンセプトで、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が提供している共済制度のこと。 冒対象は小規模な法人の役員や個人事業主で、退職したり事業を廃止した場合などに解約し、それまでの積み立ての掛金に応じた共済金を受け取ることができる。

 

 

退職金のない経営者

歴史ある会社、規模の大きな会社や財政的に余裕のある会社ですと、「役員退職慰労金」のような制度があり、経営者である役員が退任した際には、退職金をもらうことができます。

しかし、ベンチャーのような小さな会社では、経営者の退職金制度というのは、ほとんどありません。

 

 

自分で退職金を積み立てる「小規模企業共済」

「小規模企業共済」は、そんな退職金制度のない経営者向けに、退職時にまとまったお金が入るようにした仕組みです。

基本的には、自分のお金が積み立てられていく感じです。

ただ、「役員退職慰労金」は、会社のお金を積み立てていき、会社の費用となりますが、「小規模企業共済」は自分のお金を積み立てていますので、費用にはなりません

 

 

個人の確定申告の際に税控除

「小規模企業共済」は、会社の費用にはなりませんが、加入者(つまり経営者)の個人の税金の確定申告の際に、その掛金は所得控除できます。

個人向けの所得税の確定申告用紙には、「小規模企業共済等掛金控除」という、そのものズバリの項目があります。

 

 

創業すると「小規模企業共済」に出会う

私が、自分で会社を創業し、しばらくすると、商工会議所かなにかで創業者向けのセミナーのようなものがあり、そこで、この「小規模企業共済」に出会いました。

所得税の確定申告用紙に「小規模企業共済等掛金控除」という項目があるので、一見すると、なんだか公的なような感じもして、加入しておいても損はしないだろうと思い、加入しました。

とくに、「事業資金の借入れもできる、おトクで安心な小規模企業の経営者のための『退職金制度』です。」という文言にひかれてしまいました。

 

  

「小規模企業共済」に加入すべきか否か?

創業してすぐ、「小規模企業共済」に加入して、数年後の役員退任時に、退会してしまいました。

その経験から振り返ると、「加入する必要はなし」だと感じています。

 

以下に、その理由を列挙します。

 

積み立て魅力が弱い

この小規模企業共済は、2018年1月現在の予定利率は「1%」です。

 掛け金と支給額の事例として、以下のような感じになります。

 

掛金月額が10,000円の場合
加入期間 積み立て金額 退任時の支給額
5年 600,000円 621,400円
15年 1,800,000円 2,011,000円
30年 3,600,000円 4,348,000円

 

現在の銀行預金の利率と比べれば、「1%」という利率は高いですが、どうなんでしょう?

そこに積み立てるお金があれば、事業に回した方がよいようにも感じます。

 

毎年の積立金額は、その全額が税控除の対象となります。保険金などは、控除の上限金額がありますので、それと比べると、節税効果はたしかにあります。

 

 

元本割れリスク

この小規模企業共済の説明書には、

掛金納付月数が、 240か月(20年)未満の場合は、掛金合計額を下回ります。

という注意文言があります。

共済で積み立てたお金は、「廃業」「退任」の場合というのが満期となり、上で掲げたような金額が支給されます。

しかし、自己都合の退会は途中解約となり、解約手当金 が徴収されます。その場合は、積立金額の80%ぐらいしか戻って来ず、収支がマイナスとなってしまうことがあるということです。

 

 

借入時は利息を払う

急にお金が必要となった場合、自分が積み立てた小規模企業共済から借入を行うことができます。しかし、借りたら、利息を払わないといけません。

生命保険などで、一時的にお金が必要になった時に、借りるのと同じです。

自分が経営しているときに、会社でお金が必要なときがあって、この積み立て金を使おうかと思いましたが、結果的には借りませんでした。制度としてあるけれども、使いにくいのです。

 

   

資金の運用大丈夫?な中小企業基盤整備機構

多くの経営者から集められた共済金は、中小企業基盤整備機構が資金運用しています。

その運用状況をみると、けっこう危うさを感じさせます。

 

直近の状況をみると、

平成28年度運用利回り 2.39%

詳しくはこちらをご覧ください。
共済資産の運用|小規模企業共済(中小機構)

 

日本の国の年金を運用している「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の昨年度の収益率は+5.86%ですので、それと比べると、運用利回りが低く見えてしまいます。

アベノミクス効果で、日本の株式市場は株高基調であるものの、この共済金の運用は、株式よりも債券に比重を置いたポートフォリオなので、その恩恵が薄まってしまい、残念なところです。

 

世代間扶助? 

運用収支がギリギリの小規模企業共済
小規模企業共済の収支状況

今のところ、小規模企業共済の収支はまわっているような感じですが、ここ数年は、過年度に発生した欠損金の解消のため、加入者から定期的に振り込まれる掛け金を支給に回すという、国の年金と同じような「世代間扶助」に近い形が現状取られていたようです。

積み立て期間が長くなるほど、資産の利回り効果が現れてくるものですが、積み立てができていないと、効果が薄れてきます。

 

また、支給金の受給者と積み立て加入者のピラミッド構造が成立すれば成り立ちますが、加入者が少なくなったり、経営の現場からの退任者が一気に増加すると、バランスが狂いやすいと思います。

 

「団塊世代の一斉退職問題」などが話題になった時期がありますが、経営者の一斉退職というのが、おそらく、ここ10−20年ぐらいに起きると、この共済は、危ないかもしれません。

しかし、仮にこの共済の運用が立ちいかなくなったら、国がなんとかすることでしょう。

 

 

「小規模企業共済」は悪い制度ではないが。。。

「小規模企業共済」は、決して悪い制度ではないと思います。

日々の仕事が忙しくても、気がついたら、お金が貯まっていたという状況になり、その共済で貯めたお金が、何かに役立つことがあるかもしれません。

一般的に、「ベンチャー企業の20年後の生存率は0.3%」と言われています。起業したけれども、失敗し、廃業してしまった、ということは十分ありえます。そんなときでも、一文無しになってしまうリスクを少なくすることができます。

 

 

経営者本人の資産形成ならば「小規模企業共済」よりも「iDeCo」がいいかも

将来に備えた、経営者個人の資産形成ならば、今ならば「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の方がよいかもしれない、私はと思います。

これは、退職金ではありませんが、利率は1%よりははるかにいい。(資金運用配分をキチンとすればの話ですが。)

また、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」も、税務申告の際の「小規模企業共済等掛金控除」の対象です。

 

 



コツコツ貯めること。これに勝る資産形成の手段はない。
by 深野 康彦

 

 


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