「ESG」投資についてしまとめてみました。
- ESGとは
- ESG開始後10年が経過
- 儲かればなんでもよかった2000年代
- 短期的な利益を求める経営者と、それを応援する機関投資家
- 短期的な利益ではなく、長期的な利益・公益的な発展を目指す
- 世界のアセット・オーナーがPRIに賛同しつつある
- 日本での「ESG」状況は?
- 理由1) 専門のアナリストが不足
- 理由2) ESGと株価パフォーマンスの関係性がみえない
- 理由3) CSRと勘違いしている
- 理由4) 企業側の負担が大きい
- 日本の年金運用団体が「ESG投資」を宣言
株式上場している企業において、時価総額がそこそこあり、株主に海外機関投資家の比率も高い場合、「ESG」というキーワードが時々出てきます。
ESGとは
「ESG」とは何かというと、
- Environment(環境)
- Social(社会)
- Governance(ガバナンス)
の頭文字をとったものです。
具体的には、以下のような内容です。
投資するために企業の価値を測る材料として、これまではキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が主に使われてきました。
それに加え、非財務情報であるESG要素を考慮する投資を「ESG投資」といいます。
ESGに関する要素はさまざまですが、例えば「E」は地球温暖化対策、「S」は女性従業員の活躍、「G」は取締役の構成などが挙げられます。
(年金積立金管理運用独立行政法人でのESGの考え方より)
ESG開始後10年が経過
この「ESG」という考え方は、2006年から始まったものです。
国連の当時の事務総長コフィー・アナン氏が、財務情報だけではなく、このESGのような視点を、投資プロセスに組み入れるよう、「責任投資原則」(PRI、Principles for Responsible Investment)を提唱したことがきっかけです。
儲かればなんでもよかった2000年代
このような考え方が出てきた背景には、
- 企業不祥事
- 環境資源を消費する経済システム
- 労働力に対するモラル意識の低下
といった事柄が、2000年代のはじめに大きくなってきたという状況が考えられます。
簡単に言えば、「企業が儲かるためならば、何やってもいいだろう」という考え方です。
短期的な利益を求める経営者と、それを応援する機関投資家
たとえば、
経営があまりうまくいっていない会社に、経営者が送り込まれ、経営を立て直そうとします。
その経営者は、従業員を削減し、事業コストを大幅に削減したり、会社の事業を売却などを行い、短期的な利益が生じ、それを株式市場が評価して、株価が上がったとします。
そうすると、その経営者は、ストックオプションなどの成功報酬を手にして、会社を去り、後には抜け殻のような会社組織が残る、ということになります。
財務的にみれば、この会社の経営は改善したように見えますが、長期に、この会社が存続するのかという問題だけ残ります。
短期的な利益ではなく、長期的な利益・公益的な発展を目指す
企業の株価を目論み投資する機関投資家の視点では、上述のような「企業の利益」を重視してしまいがちです。
「責任投資原則」(PRI)の考え方が出てきて、従来の短期的な利益を求めるのではなく、長期的あるいは持続的なな利益、公益的な発展という点を、機関投資家にも意識してほしい、という思いがあったように感じます。
世界のアセット・オーナーがPRIに賛同しつつある
この「責任投資原則」(PRI)に賛同する機関は、ここ数年大きく増えていて、2017年5月時点では、運用資産残高の合計は17兆ドル(約1800兆円)近くあります。
資金を持つアセット・オーナーがPRIに賛同すると、そのお金を預かり運用する機関投資家も、そういう視点で企業をチェックしなければいけなくなります。
海外機関投資家の株主が多い企業などでは、従来の財務的な内容以外に、ESGに関する内容もチェックされるようになってきています。
日本での「ESG」状況は?
海外では、ESGの普及が着実に進んでいますが、日本では大きな出遅れ感があります。
日本でESGが普及していない理由を考えてみると、
- 理由1) 専門のアナリストが不足
- 理由2) ESGと株価パフォーマンスの関係性がみえない
- 理由3) CSRと勘違いしている
- 理由4) 企業側の負担が大きい
理由1) 専門のアナリストが不足
ESGというのは、いままでの財務情報以外のデータを収集して、企業を分析するということになります。
さらに、このESGに関する情報は「非財務」なので、「財務情報」のような、数値的な比較だけでなく、定性的な分析というのも必要となります。
従来のアナリストが見ていく、ということも可能でしょうが、現在、アナリスト人口自体かなり減っていて、そこまでカバーできるのか、という問題があります。
ESGの領域を専門とした人をアナリストとして活用する、という方法がありますが、なかなか難しそうです。
理由2) ESGと株価パフォーマンスの関係性がみえない
ESGをしっかりと取り組んでいる企業と、その株価パフォーマンスをみると、
株価パフォーマンスがよい → ESGしっかりしている
という関連は証明しやすいですが、
ESGしっかりしている → 株価パフォーマンス
とはなりません。
ただし、これを機に、その企業がESG課題にしっかりと取り組むと、企業の事業活動に良い影響が起こり、それが株価に反映されるということはありえます。
理由3) CSRと勘違いしている
企業において、一番多いのが「ESG=CSR」と勘違いしている点です。
ESGの概念が、従来のCSRに近いものもあり、自社は関係ないと終わってしまっている企業があります。
また、従来の財務情報のIR同様、ESGも現在の状態と将来の計画などの考え方を示す必要があります。CSR担当者が、ESGアナリストの面談・質問で、現状だけ説明し、将来の説明はせずに、アナリストの評価が低くかった、という話を聞きます。
理由4) 企業側の負担が大きい
ESGを活用した企業を投資を行う上で、企業側での情報整備・開示が必要となります。
CSR報告書などの情報をまとめていれば、それをベースにESG情報の開示ができます。
しかし、CSR報告書を作成している会社数は約1,000社。約3,600社が上場しているとすると、その3割です。
残りの会社が、一から情報を集め、整備するとなると大きな負担です。
そして、それだけの労力をかけるにもかかわらず、「メリットが少ない」と感じる企業もあります。CSRの情報をまとめたとしても、企業側に何のメリットがあるか、できることならば、対応せずに済ませたい、と思う企業も多いはずです。
ある程度、義務化・法制化などでもないかぎり、このモチベーションは低いままでしょう。
日本の年金運用団体が「ESG投資」を宣言
2017年になり、日本の年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人が、「ESG投資」を宣言しました。
これまで、あまり日本ではESGが活発化していませんでしたが、こうなると、だいぶ環境が変わってきそうです。
はたしてどうなるでしょうか?
社会性に反した無思慮な方法で競争が行なわれると、その結果、業界全体が収拾のつかない混乱に陥ることは、過去何回も体験してきた
by 松下 幸之助