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格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産の教訓

こういう被害の大きい倒産劇が起こると、いろいろと気になります。

格安旅行会社「てるみくらぶ」倒産の教訓

 

 

格安旅行会社「てるみくらぶ」が倒産

 2017年3月の最終週は、格安旅行会社「てるみくらぶ」の倒産が大きな話題となっています。

 たまたまなんですが、家人が、この「てるみくらぶ」の海外旅行ツアーに参加していまして、しかも、問題発生した3月24日に出発して、倒産前日の3月26日に帰国という、なんとも絶妙なタイミング。

 出発当日の朝に、「てるみくらぶ」から予約が確保されていないかも、という内容の案内メールが届いたものの、不安のまま海外現地に着くと、航空券もホテルもきちんと予約手配されていてました。だいぶ前、たしか半年ぐらい前に予約手続き・決済だったから、施設等への入金が済んであったからかもしれません。

 しかし、こういう無事な例は稀だと思います。ツアーに申し込みし、入金手続きをしたのに、航空券、ホテルや現地オプションの被害に遭われた方が多数おられたことが、テレビなどのメディアで紹介され、かける言葉も見つからないです。また、現在、てるみくらぶツアーで旅行中の方には、無事の帰国をお祈りいたします。

 

 

「自転車操業だった」という収益構造

 通常の会社の倒産の場合と、今回の「てるみくらぶ」の倒産で違うのは、倒産による契約不履行の影響が大きかったことにあると思います。

会社発表によると、

(被害の)お客様数は36,000件、総金額数は99億円余り

ということです。

旅行ツアーに申し込み、旅行代金を支払ったのに、その旅行に必要な航空券やホテルなどがとれていなかった。(「てるみくらぶ」は、航空会社・施設等に予約手続きはしたものの、予約を確定する精算処理ができずに、予約が流れてしまったのでしょう。)

 

 「てるみくらぶ」の内状が、「自転車創業だった」という話が、ニュースなどで紹介されています。

  通常であれば、Aさんが申し込んだ旅行があって、Aさんがその旅行費用を支払い、「てるみくらぶ」がそのお金で、Aさんの旅行で必要な航空券やホテルの手続きを行えば、問題は無いわけです。

 しかし、実際は、Aさんが支払った旅行費用を、出発直前に差し迫った、別の人の旅行に必要な航空券やホテルの精算手続きに使ってしまう、ようなことをしていました。Aさんの旅行の日が近づき、その旅行に必要なAさんの航空券やホテルの精算分は、Aさんとは別の方の支払った費用を使う、そういうことを繰り返し、「自転車操業」になってしまったと思います。

 

 

「自転車操業」は中小企業で陥りやすい

 この「自転車操業」という表現は、多少メディア等の煽り表現もあるかと思います。

 「てるみくらぶ」に限った話ではなく、中小企業ならば「自転車操業」は陥りやすいパターンでもあると言えます。

 企業の会計・経理というのは、厳密に行なっているわけではなく、ほとんどの企業でも、お金の入と出のバランス管理ぐらいしかできません。

 帳簿上では、Aさんの支払ったお金の額はわかり、それが支払われたのかどうかまではわかりますが、会社の中にあるお金の中で、どのお金がAさんのものか、支払いで使うお金は、どこから来たのか、というのは実際のところわかりません。 

 最近のネット銀行でよくある、顧客ごとに支払い口座を設定するものを利用すれば、厳密な管理ができるかもしれませんが、もう少し高額商材でないと、手間がかかるだけで、割りが合わない管理方法とも思います。

 

 

「てるみくらぶ」の収益を試算

決算書が、目的別に作り変えられたいたという話もあり、公表されている決算数値は、あまり信用できません。

大雑把ですが、どのぐらいの収支だったのか、試算してみようと思います。 

 

てるみくらぶの収益構造
売上高 86億円 2014年度の売上
粗利益 8億円 *1
粗利益率10%
販管費  
(人件費) (6億円) 人員:150名×年収400万円→6億円
(オフィス費) (1億円) *2
営業利益 1億円  

 

*1

HISが、自社の旅行ツアーの収益状況を公表しています。
それによると、
旅行ツアーの利益率は、

商品単価:141,000円、粗利単価:18,000円

→粗利率:12.7%

 これを参考に、てるみくらぶの粗利益率を約10%と想定。

 

*2

地代家賃の統計的な比率として

売上高に対する地代家賃の割合、サービス業で1.6%となります。

 この平均値から試算。東京本社以外に、大阪などに支社、海外にも支店があったようなので、実際はこの比率よりも大きいかもしれません。

 

 

「商品単価:10万円で粗利率:10%」ならば、きちんと商品が売れれば、利益はちゃんと出ることはわかります。 

手数料ビジネスですので、正味の売上高は、航空券・ホテルの仕入原価を除いた金額を実質なものと見なせば、直近の取扱高等を見ると、年商はおよそ10億円といったところでしょうか。

その利益から、人件費・オフィス費・広告宣伝費などを拠出していくと、収支トントンぐらいでしょうか。近年は、新聞広告などの広告宣伝を強化していったということなので、広告宣伝費が膨らみ、費用バランスが崩れてしまったのでしょうか。

 

 

狩猟型ビジネスモデル

 格安旅行会社は、大手旅行会社と比べて、ムダなものや直販体制などで、商品単価を安くしているわけですが、とはいえ、商品単価が安い分「薄利多売」です。つまり、たくさん売らないと、利益を稼げない。

 しかも、おなじ「薄利多売」でも、コンビニなどのように、商品単価が小さくとも購入頻度が高い場合とは違ったモデルです。旅行という商品は、一般生活者にとって比較高額商品なわけですが、同じ人が毎日のように旅行に行くということはなく、新しい顧客を作り続けないといけない。

例えて言うならば「狩猟型のビジネスモデル」。つねに新規顧客を作り続けなければ、事業が回っていきません。

そういう意味では、「てるみくらぶ」のような格安旅行会社の事業は、お客さんからのお申し込みが、常にあることが前提のビジネスモデルです。

 

また、収益を増やすためには、「単価を上げる」「販売数を増やす」の方法があるわけですが、会社のアピールポイントとして「格安」と謳い、顧客も「格安」を求めて商品を購入されている以上、「単価を上げる」ということは難しく、「販売数を増やす」しか、収益を増やす方法がありません。

 

一昨年から「新聞広告を増やしていった」という発言を見ると、たしかにここ直近2年ほどは従来の売上高よりも増えていっています。 

売上高の推移

2013年度:61億円

2014年度:86億円

2015年度:130億円 ← 新聞広告効果?

2016年度:195億円

 

あとは、顧客獲得単価がきちんと管理できていれば大丈夫そうな気がしますが、現実的には難しかったのでしょう。

 

 

「てるみくらぶ」の再建方法

「てるみくらぶ」である必要もないのですが、格安旅行会社が順調にいくビジネスモデルというのは、どういうものか、思いついたものを列挙してみます。

  • 固定費を少なくする
  • スタッフ人員を適正にする
  • 固定客を作る:リピート客
  • 友の会制度のような前金積立制度
  • 「良い旅行商品をリーズナブルで提供」お得感のある旅行商品の開発
  • ・・・

せっかく広告宣伝費を投入して、お客さんを開拓して行くわけですから、そのお客さんを一度だけでなく、何度も利用していただく形にする必要があります。よくいう「顧客資産化」です。たんに「安さ」を求めて利用するのではなく、「商品の質」を求めてもらう、という必要があるように思います。

 

しかし、こうして見ると、大手家電量販量のように、他社よりも、ひたすら「安さ」を追求するのは、経済上は、あまりよくないと感じます。かといって、暴利な高価というのも困り者です。

適正利益の必要性を説いた、松下幸之助の言葉を思い出します。 



商売は世のため人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
by 松下 幸之助

 

 


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