まるで「芸術」のような粉飾決算のカラクリだった大企業カネボウ。

- 小説「巨額粉飾」
- 小説「巨額粉飾」はカネボウがモデル
- 粉飾決算で消えた名門企業「カネボウ」
- まるで芸術的な「巨額粉飾」のテクニック
- 企業のモラルが問われる
- 世界の投資家ウォーレン・バフェットも悩ませた「繊維事業」
- カネボウの呪縛「繊維事業」
- 小説「巨額粉飾」の作者・嶋田 賢三郎氏
小説「巨額粉飾」
日本の大手企業で起きた粉飾をテーマにした小説「巨額粉飾」を読んでみました。
小説「巨額粉飾」はカネボウがモデル
小説「巨額粉飾」は、カネボウがモデルになった小説です。
「トウボウ」という架空の会社で起きた粉飾事件をテーマにしていて、当時のカネボウの経理担当役員だった筆者が書かれたフィクション小説です。
粉飾決算で消えた名門企業「カネボウ」
「カネボウ」といえば、日本における近代化が進む、明治の時代に創業され、紡績をもとに、様々な多角事業を展開し、日本を代表する超名門企業でした。
ちなみに、この「カネボウ」という社名は、創業場所が、東京府南葛飾郡隅田村の通称「鐘ヶ淵」(現在の東武伊勢崎線・鐘ヶ淵駅付近)というところから、「鐘淵 紡績」に由来している。
その超名門企業が、実は、長年にわたる累積損を抱えていたのですが、さまざまなテクニックを駆使して、会計上は利益を出ているように見せかけていました。
しかし、その累損があまりに増えてしまい、ついに債務超過となり(実際は、随分前から債務超過だったわけですが)、ついに2004年に産業再生機構の支援を受け入れ、結果的に、上場廃止となり、花王などに事業のバラ売りが行われ、そして2007年に会社解散という流れになりました。
まるで芸術的な「巨額粉飾」のテクニック
小説「巨額粉飾」は、フィクションではあるものの、粉飾の経緯やテクニックなどは、実践的という表現はおかしいですが、なかなか迫力があります。
「巨額粉飾」の本で、そのテクニックをいくつか知ることができ、
たとえば、
- 黒字会社と赤字会社の合併による損解消
- 損を子会社に移転させ、その会社の連結対象外し
- 商社・販社を使った商品の帳簿上の利益操作
などです。
当時のカネボウは、多角化経営を進め、繊維・化粧品・トイレタリー・食品・薬品・住宅など様々な事業を行なっていて、好調な事業がある一方で、不調な事業もあり、気付いた時に莫大な不良資産を抱えていました。
会計を預かる経理担当者には、当時の経営者から、「利益が出るようにせよ」と圧力がかかります。経理担当者は会計上可能なテクニックを様々駆使し、それを監査法人に認めさせて、帳簿上は利益があるようにしていたわけです。
この架空の利益は、いろいろと弊害を生みます。
それほど経理処理が複雑でない、小さなベンチャー企業ですと、売上などで入ってくるお金と、費用などで出て行くお金を管理すれば、たいていの場合、会社は回っていきます。
しかし、事業規模が大きくなっていくと、「引当金」「減価償却」など、会計上の費用項目が出てきて、複雑さを増してきます。
そして、架空の利益が出したものの、実際のキャッシュはないので、内部の資金繰りは、かなり大変だったようです。
東証一部の大企業が日繰り表で資金の管理をすること自体、異常自体
と小説内に書かれているほどです。
企業のモラルが問われる
法人が2つあれば、架空売上など、いろいろなことができてしまいます。実際は、売上がないのに、対外的な業績をよく見せたいから、利益を水増しする、ということも可能です。
しかし、それをやるかどうかというのは、経営者のモラルとも言えます。上場会社の場合、そういうことがないように、監査法人等によるチェックを行うわけですが、ルールのグレーゾーンを使った手法というのは、いつの時代にもあるものです。
世界の投資家ウォーレン・バフェットも悩ませた「繊維事業」
世界の投資家ウォーレン・バフェットの投資会社バークシャー・ハサウェイ(英語: Berkshire Hathaway Inc.)は、もともとはアメリカの地方にあった紡績会社でした。
事業価値よりも、かなり低い株価でマーケットにあった「バークシャー・ハサウェイ」を買収して、同社の繊維事業の立て直しを図ろうとしたのですが、なかなか思ったようにいかず、けっきょく同社の繊維事業を閉鎖して、溜まっていた内部資金で投資会社に鞍替えしたという話があります。
ウォーレン・バフェットの数少ない投資失敗を忘れないために「バークシャー・ハサウェイ」という社名を残しているということです。
カネボウの呪縛「繊維事業」
カネボウの場合も、繊維事業が鬼門でした。
販売も不調となり、利益操作のための不良在庫と化していて、その内在する損をどうするかが、長年の課題となり、様々な粉飾テクニックが生まれました。
一種の芸術に近いですな
小説内で、粉飾の手法を、そのように評しています。
見通しのつかない事業は売却/閉鎖処分をしてしまうという選択肢もあったでしょうが、紡績で創業した企業だけに、創業の思いもあり、なかなか切り捨てられなかったのではないかと思います。
日本企業に多いと思いますが、会社の礎となった事業というのは、不採算になったからと言って、切り捨てるということが、なかなか出来ないものです。
小説「巨額粉飾」の作者・嶋田 賢三郎氏
作者・嶋田 賢三郎氏は、カネボウの役員で、同社の経理財務を担当されていて、この粉飾事件で主犯と疑われ一時逮捕されましたが、実は、粉飾に反対を行なっていた人で、結果的に無罪となりました。
2004年にカネボウを辞してから、2008年に、カネボウの顛末をベースに、この「巨額粉飾」を上梓されました。しかし、2012年12月に亡くなられたということです。享年66歳。いろいろと心労があったのだと思います。
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by 板倉 雄一郎