新任取締役の経営手帳

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「上場ゴール」という名の幻想

株式上場は、ベンチャー企業の目標?

 

「上場ゴール」という名の幻想

 

 

雑誌やWebメディアで、ベンチャー経営者が「3年後の上場を目指します!」のような文言を声高らかにしている姿を目にすることがあります。

 

 

気分は「上場」な経営者

上場準備しているという会社の経営者に会うと、「上場したら何を買おうか」とか、まだ上場していないのに、「気分だけは上場」という人もよくいます。

もっとも、上場準備している会社の全社が上場できるわけではありません。

私が知っている会社で、去年も今年も「常に直前期」というところもあります。「直前期」というのは、上場審査等の審査対象とする決算期、という意味で、上場準備が長引き、「常に直前期の決算期」になっていることです。「去年も今年も直前期」というのは、上場準備に何かしらの障害が発生していることになります。

 

 

創業者利益を得ることは悪ではない

株式を上場させると、会社が新株を発行すれば、そこで企業が資金調達を行い、次の成長への投資を行うことが出来ます。また、上場前から株式を保有している株主が、所有の株式を売り出すこともできます。後者の場合は、会社にお金は入ってきません。

自分が創業した会社を上場させて、その上場の際に自分の持分の株も一部売り出し、利益を得る、いわゆる「創業者利益」を得ることは悪いことではありません。

そういう役得がなければ、「起業」しようとするインセンティブも弱くなり、日本の企業も閉塞的な世界となってしまいます。また、上場企業の社長ともなれば、交友関係も増えたり、身辺警護的なものを用意したりと、「有名税」ではありませんが、それなりにお金のかかるものなので、個人的にも軍資金を得ておく必要があります。

 

 

株式上場はゴール?

冒頭の「3年後の上場を目指します!」という企業経営者を見ていると、「株式上場はゴール」と思っている人もいます。

よくあるのは、上場したら、創業者も持分の株を売り出しして、資産を作り、その後、会社を去ってしまう。いわゆる「上場ゴール」です。

ベンチャー経営者全員というわけではないのですが、上場までの成長ストーリーは完璧なのに、上場後どうするのか?、その後の事業計画が薄い会社もあります。たいてい、そういう会社は「上場ゴール」の会社です。

IPOするまでは、事業規模が拡大し、利益が生まれ始め、その後の成長を期待できそうな姿なのに、IPO後は、急速に売上が減少し、利益が赤字に転落。業績様相の下方修正をするという会社も。

 

 

株式上場は通過点

株式上場は「ゴール」ではなく、企業成長の「通過」と思わないといけません。

資本市場から、お金を集めて、それを原資に、企業の成長を加速させる。

それが、「株式上場」の目的となります。

 

そのようにして調達したお金で、たとえば、

  • 販売部隊を強化する
  • 工場を増設する
  • 海外進出する

などいった形で、明確な目的がなければいけません。そういう目的で上場審査を通過したはずなのに、その後、調達したお金が、販管費などに使われ、気づいたらなくなっていたということも。

 

 

資金調達の目的が必要

上場して資金調達したら、どういう企業成長が行えるのか。

そういう点でも、主幹事証券会社や取引所などの上場審査はチェックされます。今までの業績だけでなく、将来についてもチェックされるわけです。

そういう意味では、明らかな「上場ゴール」会社というのは、その審査の過程で、ほとんど残らないはずなのですが、審査というのはどうしても完璧ではなく、上場してから、「あの会社は上場ゴールだった」ということもあります。

本音と建前ではありませんが、建前ベースの内容で上場審査資料を用意し、審査部門との面談や照会も建前ベースで行えば、本音を隠した状態で進行できてしまうのも、しょうがないことだと思います。

 

 

いろいろと迷惑な「上場ゴール」

「上場ゴール」が目的の場合、いろいろな人たちに迷惑をかけます。

まずは、「社員」への迷惑。若い会社には、創業者・経営者の勢いや能力で、会社をここまで持ってきたということが多いです。その状態の会社から、経営者が抜けてしまうと、あとに残された社員などのスタッフがどうなるのか。うまく自立できればいいですが、失速してしまうこともあります。

 その企業の顧客 。長年使っていた、商品やサービスが、ある日突然なくなる。そんなことになると、困るのは顧客である利用者。法人向けであれ、生活者向けであり、顧客がゼロの状態(つまり、売上ゼロの状態)で上場することは不可能で、それなりに顧客がいないと上場はできない。そういう顧客からの信頼というのは大切にしないといけない。

そして、株式上場のIPO時に、その企業の将来を期待して、株主になった投資家。経営者の言葉を信じて投資したのに、気づいたら、その経営者がいなくなっていた。そして、みるみる、企業価値が下がっている。なんてこともあります。

 

 

 

プレッシャーの多い上場会社の経営者

当初は「上場ゴール」という目的ではなかったものの、結果的に「上場ゴール」のようになってしまうこともあります。

株式上場をしていると、未上場のベンチャー時代と違って、社会からの要求が高まります。それが、「私」企業から「公」企業となった証でもあります。

たとえば、

  • 3ヶ月に1回の、投資家などへの定期的な業績の発表
  • 中期経営計画と、その進捗へのプレッシャー
  • 持続的な成長を実現することへの焦り

など。

社歴や売上規模の大きい会社の場合、経営というのは、飛行機の自動操縦のようで、よほどのことがない限り、墜落するということは少ないです。しかし、規模の小さい会社の場合、ちょっとした判断ミスで、すぐに失速ということになりかねません。

株式上場した会社が、成長を確約されている、というわけではなく、その後も一層の経営努力が必要です。順調にいく会社もあれば、残念ながら・・・、という会社もあります。

そのプレッシャーに耐えられなくて、「社長を辞める」ということになると、一見すると「上場ゴール」のように見えてしまいます。

 

 

「上場ゴール」会社の判別方法

過去の「上場ゴール」の会社を見ていると、こんな特徴があります。

  • IT系業種
  • ちょっと知らない証券会社が主幹事証券
  • 会社が調達する金額よりも、売出しの方が多い
  • 2-3年の業績を見て、直近の業績が著しく伸びている
  • 役員の入れ替わりが激しい
  • 資金使途の内容が「?」

などのような兆候がある場合、「上場ゴール」の可能性が出てきます。

これらの企業に、株式を投資する前には、要チェックが必要でしょう。

 

 

「上場ゴール」するよりもM&Aの方がいい

 「上場ゴール」するならば、最初から、大企業などにM&Aされた方が、いろいろな意味で迷惑がかからず、Happyになることが多いです。

長所は、こんなところです。

  • 株式上場よりも、管理コストの負荷が少ない。
  • 大手企業のリソースを活用した事業展開も可能。
  • 経営者がいなくなっても、社内のスタッフなどが残りやすい。

M&Aの場合、自社を買収してくれる、お相手がいれば、という前提はありますが。

下手に「株式上場」を行うよりも、社内外含めて、社会への迷惑は少ないと考えます。

 

 


どれほど優れたアイデアがあってもそれを事業として育成してIPOするのは極めて難しい。ですから、消費者や社会のために何としても役に立とうという姿勢がない限り、会社は生存できません。
by 千本倖生

 

 


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