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「ベンチャー」と「上場会社」のお金の悩み

企業は「お金」に対する捉え方が様々です。

 

「ベンチャー」と「上場会社」のお金の悩み

 

 

 

企業活動にとって血液である「お金」

企業活動において、「お金」は血液のようなもので、当然のことながら、お金がないと「商材の仕入れ」「従業員への給与の支払い」「オフィス家賃の支払い」など、何もできなくなり、企業活動が行えません。

よく「1円で起業」ということがありますが、現実的に1円で会社を作っても、実際には会社として何もできることがありません。(M&Aや会社統合の際にテクニカルな手続きで1円会社を作ることはあります。) 

 

お金は、たくさんあればあるだけ良いように感じますが、上場会社ではお金がありすぎると、収益率が悪くなるため、適正はそのため、お金を社外に吐き出すというようなことも時にはあります。

企業の「お金」との付き合い方は、上場会社とベンチャー企業を経験してみると、かなり対照的だと感じます。

 

 

資金繰りが肝心な「ベンチャー」

ベンチャー企業では、カツカツとしたお財布状況の中、経営をしていることが多いです。

手持ち資金として、事業活動の3ヶ月分程度の資金を持つのが「やっと」というところが多いと思います。それでも、入金や支払いサイクルに、ちょっとした狂いが生じると、大変なことになったりします。

「入を増やし、出を減ずれば」、その差が利益となるわけですが、先に支払ったり、6ヶ月決済の手形で支払いを受けたり、タイムラグが発生したりして、その狂いが生じる原因となります。

こういう狂いやすい状況は、手厚く資金調達ができたり、大会社とのコネクションなどがあると、状況はかなり改善します。

 

 

5億円資金調達して1年で使い果たす

以前在籍していたベンチャー会社は、いわゆるバイオベンチャーで、次世代の医療技術の開発を行っていました。その技術が「事業化」ができて、初めて収入が生じます。

当然のことながら、「事業化」できるまでは、収入ゼロです。しかし、開発ラボを持ち、スタッフを何十人と抱え、研究資材もいろいろと使うので、相当の費用が毎月出て行きます。

ときどき、その会社では、新規株式を発行して、ファンドなどの外部の投資家から資金調達を行なっていました。一回の調達金額も、それなりに大きく、億円単位でした。

あるとき、5億円ぐらいを調達したことがあります。しかし、毎月の支出が5,000万円ぐらいなので、その調達額でも10ヶ月程度しか存続できません。

その10ヶ月の間に、「技術の事業化」または「株式発行で資金調達」で、資金が底を着く前に、次の資金を手当てする必要があります。

業界の特徴として、医療業界の場合は、「技術の事業化」は、臨床試験などのステップを踏まなければいけません。一般的な業界の、通常の商品のように、何かビジネスアイデアが出来て、スグに「事業化」ということが難しいのです。

あるいは、その技術を、大手製薬会社にライセンスアウトして、そのライセンス料を稼ぐということも可能です。しかし、これも相手があることなので、ライセンスアウト先がスグに決まるというのが、なかなか難しいです。

結局、「株式を発行して、資金調達」ということで日常経費を稼ぐことになり、そんなのを繰り返していくと、本格的な売上が立つ前に、資本金が数十億円ぐらいの図体の大きな会社になってしまいます。

これは、その会社だけでなく、「バイオベンチャー」のような、長期先行投資型の業態では、そうならざるを得ない道とも言えます。

 

 

ベンチャーの資金量は、飛行機の滑走路

「バイオベンチャー」のような特殊な業界だけでなく、たとえば、新たなビジネスを立ち上げる「創業ベンチャー」の場合でも、似たようなパターンとなります。

  1. 会社を作る
  2. 核となるビジネスを作る
  3. ビジネスを軌道に乗せる
  4. さらに成長できる策を講じる

 

「2. 核となるビジネスを作る」の期間は、最初の資金を食いつぶして、企業活動を行うことになります。

資金量は、いわば滑走路の距離に似たようなものです。飛行機で例えれば、離陸させることができるかです。

滑走距離が短ければ、速度が十分に出ていない状態なので、失速して墜落してしまう可能性があります。滑走距離が長ければ、その分滑走速度も出て、離陸が成功しやすくなります。滑走距離の差が、余裕となります。

「2. 核となるビジネスを作る」「3. ビジネスを軌道に乗せる」というフェーズに移行して、売上収入を増やし、支出を超えるようにします。いうならば、飛行機の揚力を重力より強めることで上昇する、ということに似ています。

 

  

「お金」余りな上場企業

一方、株式上場している企業などの場合、多くの企業では、「お金」が余っています。(「全て」の上場企業が、というわけではありませんが。。。)

よほどの特殊事情がない限り、上場会社の多くは、ビジネスモデルが確立され、安定的な収益を産んでいます。言うならば、「キャッシング・マシン」のように、毎年利益が生まれます。だからこそ、株式を上場できているとも言えます。

こういう状態の企業では、企業内部にどれだけお金を置いておくか、「手持ち資金」をどのぐらいを持つのか、というのはなかなか難しい話です。

 

 

継続企業の前提に重要な疑義あり

「手持ち資金」をどのぐらいを持つのが理想か。

数年前までは、「手持ち資金」が少ない状態でも、特段、大きな問題ありませんでした。逆に、手持ち資金が多すぎると、「お金が寝ている」と、海外の機関投資家から指摘を受けることがありました。

しかし、2008年に発生したリーマンショックの際に、保有資金が少なかった不動産系の会社が、多数潰れるという現象がありました。

手持ち資金を少なくして、その分借入等で資金を調達し、資金を高回転(レバレッジ)させて、高い利益率を作り出していたのですが、リーマンショックで、借り入れた資金の担保評価額が大きく下がる事態となり、追加の資金手当てができずに、企業体が崩れやすかったわけです。

2008年以降は、「手持ち資金」は少なすぎてはいけず、ある程度余裕を持っておかないといけないような風潮になっています。

それが少なすぎると、その企業の存続が危ぶまれます。いわゆる「ゴーイングコンサーン(going concern)」です。

実際、「リーマンショック」直後は、「資金の手当てが少ない」あるいは「将来の見込み収入が見えていない」と、「継続企業の前提に重要な疑義あり」というコメントが、監査法人から出るということもありました。

たとえば、ものすごい大きな会社である「武田薬品工業」の場合ですと、4兆円ほどの資産のうち半分である2兆円ほど現金を持ち、それを1兆円を日本円、もう1兆円を外貨で保有している、という話がありました。(ちょっと前の話なので、今はどうかわかりませんが。)余裕資金という側面もありますが、M&Aなど、いつでも機動的に対応できるようにしている、と言えます。

 

 

「お金」が利益率を押し下げる 

また、企業内に「お金」が余っている場合、その企業は、お金の処置に手を焼いていることがあります。

とくに株式を上場している会社は、継続的な成長が求められると同時に、利益率の向上も必要となってきます。

「現金」のままで持っていても、現在の日本国内の銀行預金では、利子率が低く、ほとんど増えません。

現金ではなく、事業という資産というに変えて、利益を生む状態にする必要があります。

 

重視される指標の一つに「ROE」というものがあります。

この「ROE」は、以下のような式で計算され、会社の収益性を表すものです。 

 

  ROE = 純利益
株主資本(自己資本+剰余金)

 

仮に

純利益:10億円

自己資本:100億円

の会社があったとすると、ROEは10%です。

 

  ROE = 10億円
100億円

 

 

この収益状態で、剰余金が50億円ある会社ですと、ROEは6.6%となり、約4%低下してしまいます。

 

  ROE = 10億円
150億円

 

 

利益が出て、会社内部にお金が貯まっていく(いわゆる「内部留保」)と、分母が大きくなっていき、同じ利益額ならば、ROEが下がってしまうわけです。

「手持ち資金」は手厚くしたいが、厚くしすぎると、逆に利益率:ROEが下がってしまう、ということになります。

 

 

「お金」の使い道に困る「会社」

「お金」の状態で持っていても、ほとんど利益を産まないので、「お金」を「資産」に変えないといけません。 「資産」という文字の通り、継続的な利益を産む状態にするわけです。

本業に追加投資しようとしても、そう簡単に売上等が倍になるということは少なく、本業とは別の事業に投じたりします。たとえば、商業ビルを購入して、賃貸収入を得れるようにする、というのは、一番わかりやすい例です。バブル期ごろには、企業がそういう余剰資金を、株式市場などに投じる、いわゆる「財テク」というものも流行りました。

企業内で、お金の使いみちが見つからない場合、「配当金」や「自社株買い」などで、社外にお金を吐き出して、スリム化を狙うということもあります。 

 

「お金」がなくて困っている「ベンチャー」などと比べて、「お金」がありすぎて困っている「上場会社」。美味しいものを食べすぎて、太って困っているのと、似ているような状況です。

 

 



お金は儲けるより使う方が難しい。
by 松下 幸之助

 

 


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