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「NPO(非営利法人)=儲けてはいけない」という誤解

「NPO=非営利=ボランティア」という誤解。

 

「NPO(非営利法人)=儲けてはいけない」という誤解

 

 

最近の国会で、「NPOは稼ぐべき」旨を話した世耕経済産業相の答弁が話題を読んでいます。「たしかに、そのとおり」と納得する部分があります。

 

 

「株式会社=営利法人」「NPO=非営利法人」

昔、環境系の会社を経営していたとき、「株式会社」という組織形態をとりました。

しかし、環境分野で活動する団体は「NPO」が普通で、「株式会社」という形態は非常に珍しがられました。

 珍しがられるだけでなく、「株式会社=営利法人」という見方をされ、「環境で儲けるつもりか?」のように言われたこともあります。

逆に、NPOの場合、「NPO=非営利法人=儲けない」から「潔い」、というように見られているような場面に、何度も遭遇しました。

 

 

NPO=非営利法人の本当の意味

「NPO」という文字は、

NPO:Non-Profit Organization

の略で、その名の通り「非営利法人」という意味です。

このNPOの「非営利法人」という文字の印象から、NPOが提供するサービスは「無料やボランティア、あるいは安価で提供する」というように誤解されていることを多いように感じます。 

しかし、この「非営利」という本当の意味は、サービスの無料等のことを指しているものではありません。

 

なお、NPOと同じように、NGOという名称もよく聞きます。

NGO: Non‐Governmental Organization

これは「非政府組織」という意味になり、

政府や政府間の協定によらずに作られた民間の団体

と説明しているものが多いです。

実は、NPOとNGOには、明確な違いがなく、「非政府組織」という点では、NPO法人も一緒です。

現在の日本では、NGO法人というのは設立できず、社団法人・NPO法人を運営母体に、NGO活動を行うようになっています。

 

 

 

株式会社・NPOの制度的な比較

簡単に、株式会社とNPOの違いをまとめると、以下のようになります。

 

  株式会社 NPO
根拠法 会社法 特定非営利活動促進法
活動目的 定款に掲げる事業の追求 特定非営利活動(20分野)
議決権 出資比率による 原則1社員1票
利益分配 可能 不可

 

株式会社とNPOでは、根拠となる法律が異なり、さらに株式会社にあるような、出資額に応じた組織の所有・責任のあり方が異なります。

とくに大きな点が、事業活動で得た「剰余金の分配」ができるかどうかという点です。

 

 

営利かどうかは 「利益分配の可否」

株式会社の場合、一年の事業活動を通じて最後に残った利益を、配当金という形で、出資者の出資状況に応じて分配することができます。 

このような利益分配により、事業を通じて得られた利益が、最終的に出資者に還元されてしまうということで、株式会社は「営利法人」となります。事業活動が、利益を得る手段ということになってしまうからです。

 

一方、NPOも、事業で利益を生むことは禁止されていません。その利益に関して「利益分配が不可」、つまり利益を出資者等への還元が不可ということが、「NPO=非営利法人」という意味となります。(給与等の支払いは認められています。)

つまり、この「非営利法人」というのは、「NPOが提供するサービスや商品が、無料や安くなくてはいけない」という意味ではないのです。

しかし、「利益分配の可否=営利・非営利」ということを知らずに、「NPO(非営利法人)=儲けてはいけない」と誤解されてしまっているように思います。

そして、この誤解の一番の被害者は、NPO法人そのものかもしれません。 

 

 

適正価格でのサービス提供が難しい、日本のNPO法人 

株式会社であれNPO法人であれ、利益が出なければ、継続的な組織運営を行うことはできません。 

しかし、「NPO(非営利法人)=儲けてはいけない」という誤解が、
NPO法人のサービス→無料やボランティア、あるいは安価で提供されるもの
というようにイメージされて、適正価格でのサービスが提供しにくく、利益を産みにくくい状況につながっているように思います。

もっとも、料金を取れるほどのレベルまで、サービス内容が昇華されていないということもたまにありますが。。。

 

  

日本のNPOの年間利益は平均180万円

内閣府の統計によると、日本のNPO法人の財政状況は、以下の状況になっています。

NPOの活動事業の収益構造
NPOの活動事業の収益構造

出所:平成27年 特定非営利活動法人に関する実態調査 | NPOホームページ

 

上表の統計の中央値の数字をみると、

  • NPOの平均収益:2,093万円
  • NPOの平均費用:1,924万円
  • NPOの平均収支:179万円

となっています。

収益が2000万円ぐらいですと、小規模の組織にならざるをえなく、スケールメリットなどを生かした事業展開というのも難しいでしょう。

この数字は、平均値なのでかなりばらつきのある数字ではありますが、NPO法人が対価のあるサービスを提供することが難しく、日本のNPOの財政状況の厳しさを実感します。

 

環境会社を経営していた際、いろいろなNPO団体の方とお会いさせていただきました。たしかに、収支トントンで行なっている団体が多かったです。組織規模もいろいろとありますが、一番多かったのは、個人の思いをNPO法人化したようなケースです。収益規模も、上の統計にあるような1000-2000万円ぐらいが多く、無給理事や無給スタッフで成り立っているような組織が多かった記憶があります。

 

 

寄付金に頼らざるを得ないNPO法人の財政状況

NPO法人では、事業収益以外にも、寄付金によって、組織の活動資金を得るということが可能です。

さきほどの「平成27年 特定非営利活動法人に関する実態調査」の結果に、寄付金の状況がまとまっています。

 

NPOの法人寄附受入状況
NPOの「法人」の寄附受入状況

 

NPOの個人寄附受入状
NPOの「個人」の寄附受入状況

 

NPO法人に寄付する個人や法人がいることで、NPO法人が活動できるわけですが、ちょっとした景気の谷間に入り、景況感が悪くなると、寄付金額が少なくなるというリスクを孕んでいて、継続・安定的にサービスが提供できない可能性があります。

そういうリスクを少なくするために、経済的に自立した財政状況というのが理想的だと思います。

 

 

健全な財政状況の組織が多い海外のNPO

海外を見ると、きちんとした財政で運営しているNPO法人が多くあります。

そういうところでは、利益を生む適正水準てのサービスを提供していて、優良な事業会社並みの収益で、理事や社員にも、ちゃんとした給与が支払われていたりします。

そういう財政状況が、ボランティア以外の能力の高いスタッフの採用を可能にし、NPO組織で扱う社会的課題の幅を広げることにつながっています。

 

日本でも、事業の規模金額の多いNPOはありますが、ごく一部です。ほとんどは、ボランティアによる支援で、運営がやっと回っているという団体が多く、継続的な運営という点が危うさも感じる時があります。

 

このような、日本と海外でのNPOの活動状況の違いは、「非営利法人」という意味の勘違いが起因のように感じます。

 

「NPO=ボランティア」という、この誤解が早く解けることを祈ります。

 

 



アメリカのNPOはボランティアではなく、ビジネスの手法を使って社会問題を解決するソーシャルビジネスという形が多い
by 駒崎 弘樹

 

 


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